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音響良技録店 第9回:マイクロフォンのチョイスを具体的に説明【Drum編 part 4】

2025.08.07

今回はまず最初に、ダイナミックマイクロフォンの構造で大切な役割であるマグネットについて掘り下げます。第7回で解説したフレミングの右手の法則で電流が発生するのですが、その電気エネルギーに変換する重要な役割のマグネットにフォーカスを当ててみます。

ダイナミックマイクロフォンに使われるマグネットは3種類あります。

1.アルニコ

2.ネオジム

3.フェライト

それぞれの特徴を表にしてみました。

1960年代までのマイクロフォンはアルニコ磁石が多く、1970年代からはネオジム、フェライトに変わって来たようですが現代でもアルニコ磁石で作られた新作のマイクロフォンも発売されています。

各マグネットの特徴を活かした製品があります。

さて今回は、AKGのB.D(バスドラ用)マイクロフォンにフォーカスしてみましょう!!

AKG(アーカーゲーまたは、エーケージー)というマイクロフォンメーカーは、1947年にオーストラリアのウイーンで設立されました。1980年代に発売されたAKG D112のデザインは当時のマイクロフォンの中ではとてもカジュアルでポップでした。

AKG D112

当時、僕がFOHを担当していたボーカリストの久松 史奈もジャケットに使ったくらいでした。

久松 史奈 single / YES MY FRIENDより

当時は、ビッグエッグ(おおきなたまご)の愛称で使っていました。

2015年にマイクホルダを一体型にしたマイナーチェンジモデル D112 Mk2 が発表されました。スペックを見てみましょう!!

①の部分は緩やかな近接効果であります。中域はとてもフラット(均一な)周波数特性です。

②の部分はアタックですが、3〜4 kHzを中心に作っています。

160dBの音圧にも歪まないラージダイヤフラムです。

マグネットに関してはメーカー表示はありません。

指向性は、単一指向性(カーディオイド)

1980年代に発売された時に印象的だったのが、ドラム全体に考えられたマイクロフォンのセットでの発表だった事です。

国内で有名なドラマーにエンドースして、ライブの時にすべてのドラムマイクロフォンがAKGであったりもしました。

僕が愛用するAKGのB.DマイクロフォンはこのAKG D112の前身のD12です。

AKG D12

このマイクロフォンは、僕の好きなレコーディング、ミックスダウンエンジニアのボブ・クリアマウンテンが愛用している事も広く知られています。僕はアナログ・レコードの時からレコーディングエンジニア、ミックスダウンエンジニアのクレジットを細かく見ていまして、ボブ・クリアマウンテンのミックスしたアルバムはとにかくドラムの音がロックでかっこいいです。是非、Mixed by Bob Clearmountainのクレジットがあるアルバムを沢山聴いて欲しいです。

代表的なアルバムは、Bruce Springsteenの7枚目のアルバム『Born In The U.S.A.』は全米で1,200万枚、全世界で2,000万枚のビッグセールスを記録したブルース・スプリングスティーンの代表作でもあり名盤です。

1950年代の早くにバスドラ、ベース楽器の集音を目的にしたマイクロフォンだったようです。D12のF特性を見てみましょう。

①の部分は、6kHzの明るいアタック音のチューニングになっています。(近接効果の表示はありません)

指向性は、単一指向性(カーディオイド)でマグネットは不明です。

このマイクロフォンの構造がとてもユニークです。メーカーの取説にはこのように書いてあります。Full, punchy sound due to large diaphragm and special “Bass Chamber”大型ダイアフラムと特殊な「バスチャンバー」による豊かでパンチの効いたサウンド」このバスチェンバーが何であるのか!? 僕の所有するマイクの内部写真がありますのでお見せ致します。


ダイヤフラムの背面に空気を制動するバスチェンバー(空気を貯める筒)があります。

このチェンバーによってダイヤフラムの動きに制動が掛かるので、もっちりしたサウンドになります。*小松の感想です

D112、マイナーチェンジモデル D112 Mk2にも、バスチェンバーを装備しています。

僕はこのD12のバスチャンバーによる、もっちりした低音が好きで、JazzのB.D(バスドラ)やロックのB.Dに使ったりしています。少し特殊なマイクアレンジですが、バスドラのビーター側にマイクを立てたりします。


最後に2013年に発売されたAKG D12 VRを紹介します。

ダイヤフラムは直径29mmの大口径です。最大音圧レベルは164dB SPLとパワーヒッターのドラマーでも歪むことは無いです。48Vのファンタム電圧を供給することで、3つのEQモードを選択可能です。

F特には、各EQモードも明記されています。

黒ラインのF特はEQモードを使用しないF特です。

48Vのファンタム電圧を供給して3つのEQモードをスイッチで切り替えます。

LED グリーン 表示:
オープンキックドラム、中域を減衰して低域を持ち上げてロックな感じになります。

LED ピンク 表示:
ヴィンテージサウンド、中域のみを減衰して、ボーカルを聴かせるジャンルに良いと思います。

LED ブルー 表示:
クローズドキックドラム、中域を減衰して低域と高域を持ち上げてよりロックで存在感を強調。

コンサートジャンルに合わせてEQモードを切り替えて使用出来ます。

マイクの指向性は単一指向性(カーディオイド)です。

マグネットに関してはメーカー表示はありません。

414ビンテージモデルのトランスを採用しているようです。第8回でも書きましたがマイクトランスを使う理由は一般的には、「サウンドキャラクターに大きな影響を与える」と「サウンドパフォーマンスが一定になる」「マイクを繋ぐ機材や環境で品質の劣化をうけにくい」があります。

今回は、AKGのB.D(バスドラ)マイクロフォンを3機種紹介しました。年代や機種によってサウンドカラーは違いますが、数々のコンサートそしてレコーディングに使われてきました。自分のドラムサウンドを確立するには歴代の優秀なレコーディングアルバムを沢山聴く事が大切です。僕が大好きなボブ・クリアマウンテンのMixed by Bob Clearmountainというレコーディングクレジットだけで購入したアルバムShawn ColvinのA Few Small Repairsというアルバム

このアルバムの3曲目の”The Facts About Jimmy”を聴いて欲しいです、ロック・サウンドのボブ・クリアマウンテンがとても繊細でクールなミックスに仕上げていますよ!

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小松久明(音響良技録店)
サウンドエンジニア/サウンドデザイナー。2021年 (株)K.M.D Sound Designを設立。毎年100本以上のコンサートミキシング、企業講演、授業等を通じてサウンドエンジニアの技術を教えている。
記事内に掲載されている価格は 2025年8月07日 時点での価格となります
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