パラダイス

音響良技録店 第8回:マイクロフォンのチョイスを具体的に説明【Drum編 part 3】

2025.07.24

僕がドラムのマイクロフォンをチョイスするポイントはその音楽のジャンルです。

新規で新しいアーティストのプロダクション様からお仕事を頂いたタイミングで、YouTubeでそのアーティストの映像などを検索します。

その後にコンサートのセットリストと音源、歌詞を頂きチェックをします。

音源を聴きながら歌詞に書き込みをしつつ、各楽器に立てるマイクロフォンのチョイスを考えます。

初めての試みですが、図にしてみます!


BDマイクロフォンチョイスに戻ります。

前回取り上げた僕の好きなエレクトロボイスのND868,ND68はロックやポップスに使いますが、女性ボーカルで繊細なドラムサウンドの場合は、Miktek PM11を使います。

Miktekはテネシー州ナッシュビルで生まれたマイクロフォンメーカーです。

Miktek PM11

マイクの特性を見てみましょう。


①の部分ですが、近接効果はあるのですが、メーカースペックには近接効果の低音の増幅は表していません。実際の使用感は低音がスッキリしています、BETA52Aと比べると物足りないのですがスピード感や、ドラマーのバスドラの細かいニュアンスがピックアップ出来ます。

②の部分ですが、ミッドローが減衰していますのでよりタイトなサウンドになります。

③の部分ですが、5kHzが増幅していますので明るいアタック感になります。

僕もバスドラのアタックはコンソールのイコライザーで5kHzを中心で考えています。

④の部分ですが、BETA52AやND68ではかなり減衰しているのですがPM11は16kHzぐらいまでピックアップ出来ています。

指向特性はスーパーカーディオイドです。スーパーカーディオイドの特徴は、下図の矢印の先に記載しています。

また、このマイクのマグネットはエレクトロボイスND868,ND68と同じネオジムマグネットです。

このマイクには、カスタムAMIマイクトランスが内蔵されています。


*参考画像:同メーカーのマイクCV4のAMIマイクトランスの写真


マイクトランスが入っている理由はメーカー的には説明はありませんが、一般的にマイクトランスを入れる理由に「サウンドキャラクターに大きな影響を与える」と「サウンドパフォーマンスが一定になる」「マイクを繋ぐ機材や環境で品質の劣化をうけにくい」があります。

以前、B.Dへのマイクロフォンのチョイスの幅を広げる為に、海外のYouTubeを観ていましたらかなりの本数のB.Dマイクロフォンのサウンドチェックをするチャンネルを見つけまして、その中でMiktek PM11が良かったので、海外の販売サイトから購入しました。

このMiktek PM11よりもっとタイトでキレのあるB.DマイクはゼンハイザーMD421です。以前に、あるソロボーカリストの現場でエレクトロボイスのND868を使ってサウンドチェックをしていたタイミングで F.O.Hの僕のコンソール前でB.Dの音を聴いていたのですが、振り返って小松さん “ ポリス”のようなソリッドな感じにB.Dとベースをしたいと言われた時に、頭の中でコンソールのイコライザーで調整するよりB.DのマイクロフォンをゼンハイザーMD421に変えた方が早いと判断して、小屋にあったゼンハイザーMD421に変えたところ1発でOKが出ました。

ゼンハイザーマイクロフォンMD421について掘り下げて行きましょう!! 

実は、年内に” Microphone Love “という僕がどれだけマイクロフォンが好きなのかYouTubeを作成するのですがその第一弾は、ゼンハイザーマイクを考えています。1945年、フリッツ・ゼンハイザー博士によってドイツにて創立された会社は、当初は”Laboratorium Wennebostel”という社名でしたがゼンハイザーという社名になったのは1956年のようです。今年で創立80周年を迎えたようです。当時は映画、テレビ、ラジオの制作ブームが訪れた中で、MD421は1960年に誕生しました。

1960年の発売当初のシェルの色は白でした。

その後にシェルが黒になったのですが、理由はたぶんマイクロフォンがカメラに映り込むので白より黒が良いと判断されたと思います。これはあくまでも小松の意見です。

白いMD421についてはまたいつか、オールドマイクに焦点を当てた投稿を考えます。まずはこの、MD421のF特性を見て見ましょう!

①の部分ですが、近接効果はあるのですが、メーカースペックには近接効果の低音の増幅は表していません。点線で書かれているのは、マイクロフォンのコネクター近くにスイッチが付いていまして、Mは” Music “ の意味でフラットな特性になっています。バスドラに立てる場合はこのスイッチがMになっている事を確認しましょう!そのスイッチをS方向に回すと、点線のように段階で低音がロールオフされます。Sは” Speech “の意味です。これは、放送局などでスピーチに使う場合に近接効果をマイクで処理するように考えられたようです。

②の部分ですが、1kHz付近から緩やかに上がり3kHzから15kHzまで均一に上がっています。この部分がアタック感のキレが良い理由だと思います。低音もフラットで80Hzからロールオフされていますので、最初は低音が無く寂しいと思いますがコンソールのイコライザーで欲しい周波数の低音を上げれば良いのです。

指向性は単一指向性(カーディオイド)です。

マグネットに関してはかなり探しましたが明記されていません。

1960年代の白いMD421のマグネットはアルニコでした。アルニコとは鉄に加えアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などを原料として鋳造された磁石(鋳造磁石)です。MD421は現代までにシェルの色だけでは無く、マグネットやコネクター、ロールオフスイッチなどのマイナーチェンジを繰り返し現代も愛されるマイクロフォンです。

2024年10月に登場したMD421 KOMPAKTは革新的で衝撃でした。

MD421と比べると驚くほどコンパクトになりました。

左:MD 421 KOMPAKT 右:MD421 II

コンパクトになったのでドラムのタムにクリップホルダーで取り付ける事ができるようになりました!!

F特性を見てみましょう!

以前のMD421とかなり同じF特性になっていると思います。これだけコンパクトにして同じようなF特性になるように作るのはかなりの苦労があったと思いますね。

実際にライブでドラムのタムや、エレキギターに使ってみました。

現代に誕生したMD421コンパクトの音色はより以前よりクリアになった感じです。コンパクトになりクリップホルダーに装着できるなどマイクアレンジの幅が広がりましたね!!すでに、多くのサウンドエンジニアのSNSなどで拝見するようになりました。今後もゼンハイザーマイクロフォンについては、スネアやタム、エレキギターのマイクチョイスで書きますがわたくしの思いを一言で表すと “ ダイヤフラムとマグネットユニットの完成度が高い!! “ と思います。

Rock oNマイクカテゴリーページはこちら


≪ K.M.D Sound Design Inc.(Youtubeチャンネル) ≫

≪K.M.D Sound Design Inc.≫

≪Xアカウント:Hisaaki Komatsu≫

※記事についてご質問などあれば上記XアカウントのDMよりお知らせください

小松久明(音響良技録店)
サウンドエンジニア/サウンドデザイナー。2021年 (株)K.M.D Sound Designを設立。毎年100本以上のコンサートミキシング、企業講演、授業等を通じてサウンドエンジニアの技術を教えている。
記事内に掲載されている価格は 2025年7月24日 時点での価格となります
パラダイスの新着記事