パラダイス

瀬川商店 第53回:AIとの暮らし方新たなフェーズ

2025.11.21

AIに関するニュースは相変わらず追いかけていて、自分の仕事との関わりを気にしています。今年後半はAIが生成した音楽について訴訟も起きてましたからどうなるんだろうと思ってました。僕の大雑把な予想は訴訟を乗り切れるだけの巨額な資金を調達できた会社だけが生き残るんだろうな、というものでした、、、がしかし、

ブルームバーグ・ニュースが水曜日(11月19日)に報じたところによると、
「ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)、ソニー・ミュージック、ワーナー・ミュージック・グループが、AIを活用した音楽ストリーミングのスタートアップであるKlayに対し、カタログをライセンス供与しました。これにより、ユーザーは人工知能を使って楽曲を作り変えることができるようになります。Klayは、これら大手3社すべてと契約を結んだ最初のAI音楽サービスであり、モデルの訓練用に数千曲をライセンス供与しました。同社は、アーティストとレーベルに対し、彼らの作品がどのように使われるかについて制御権を与えることを約束している」というような趣旨の報道がありました。

元記事リンク|出展:Reuters(英文)

上記の展開になって、あららそういう事?と思ったり、まあレコード会社が自社カタログ活かすにはそういう方法とるのもアメリカらしいな、と思ったりもしました。だって一回の勝訴で限定的な賠償金を手に入れるよりも、半永久的に利益が出る選択した方が企業にとっては賢明って事だと思うしね。

最近「フェアユース」の意味とか定義を改めて考えるようになって、(日本の著作権法ではフェアユースの考え方はアメリカとはちょっと違うはずです、、、というか音楽教室の教材から著作権徴収するしないの話あったでしょ、あれ系の話ね)。アメリカの場合はだいたい以下のとおりで、

🇺🇸 フェアユースの主な判断基準

フェアユースが適用されるかどうかは、最終的には裁判所が以下の4つの要素を総合的に考慮して判断します。

1.利用の目的と性格(The purpose and character of the use)

・営利目的か非営利・教育目的か。

・元の著作物に新しい表現や意味を加える「変形的な利用(Transformative Use)」であるかどうかが特に重視されます。(例:批評、論評、報道、教育、研究、パロディなど)

2.著作権のある著作物の性質(The nature of the copyrighted work)

・事実に基づくもの(例:ニュース記事、学術論文)か、フィクション性の高いものか。事実に基づく著作物の方がフェアユースと認められやすい傾向があります。

3.著作物全体との対比における使用された部分の量および実質性(The amount and substantiality of the portion used)

・元の著作物全体に対して、利用された部分の量や、その部分が作品の本質的・重要な部分であったかどうか。

4.著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する利用の影響(The effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work)

・その利用によって、元の著作物の販売や市場価値が損なわれるかどうか。

特にAIや生成AIの分野では、学習データとしての利用がこのフェアユースにあたるかどうか(特に1と4の要素)が、Suno等のサービスが登場した以降ずっと大きな議論の的となっていたわけです。

話は少しAIの話題からは離れますが、アメリカでは劇伴関係の書籍がかなり出版されています。その中には実際の映画のスコアを転載しつつ細かい解説がしてあったり、奏法やアーティキュレーションの書き込み方に関しての記述があるのでとても参考になります。特にアメリカはホラー映画がたくさんあるんですが、そういうスコアの方が現代音楽的で風変わりな奏法を作曲家が好んで試すので、そういう映画のスコアは書法の参考になるんです。そして、上記の1のように教育目的の場合は転載が許可されやすい環境が整っているので、UCLAやUSCでFilm Scoringを勉強した生徒はそういう割と最近のスコアで勉強できる環境があるんです。実践的だよね〜

さて、そのフェアユースに話が戻りますが、Suno や Udio が主張してきた立場は

「トレーニングはフェアユースなので、著作権者の許諾は不要」

でした。
もちろん上に書いた通りこれはアメリカに於いてはの意味です。


しかし今回、世界最大の権利者である UMG・Sony・Warner の“3社揃い踏み”で Klay にライセンスを付与したことで、

→ トレーニングには法律上“明確な許諾”が必要という実務的コンセンサスが形成され始めた

というわけですね。

つまり、フェアユースを盾にしたアプローチは通りにくくなり、「正規ライセンスを取ったAIだけが合法で安全」という方向へ業界全体の流れが動きました。

これはかなり大きなターニングポイントですよね。

“AI学習のフェアユース”はアメリカ法の中でも曖昧で、判例も少ないため、企業側は「勝負を避けて正規ルートを作る」という道を選び始めました。今回の契約はまさにその動きで、

ライセンスがある → 合法


ライセンスがない → リスク(訴訟対象)

という構図が一気に明確になってきています。

YouTube も当初はフェアユースやDMCAで戦っていたけど、結局現在は:

  • Content ID
  • 権利者との包括契約
  • ロイヤリティ分配

という“ライセンスベース”に移行しました。

今回の Klay との契約は、AI 音楽生成版の “Content ID モデル”とも言えます。

今回のニュースも含めて、今、欧州も米国も検討しているのは:

“人間の著作物”と“AI生成物”を明確に区別する法律を作る流れになっているように個人的には見えます。

AI生成物は原則:

  • 著作権なし
  • 公有に近い扱い
  • 商用利用は可能だが、
    元データに許諾が必要

こうなると AI作品が市場に溢れても、AI作品が“財産”にならない。その結果として、“職業作曲家の価値が下がらないようにする” という落としどころを探っているのでは、、、という風にも見えます。でも本当にどうなるかまだまだこれからですね。

また、この流れはYouTubeのContent IDと同様の流れになりそうですから、AI学習に自分の曲を使わせた作曲家にロイヤリティが入る仕組みができます。例えば、若干星新一的な世界な感じですが、

  • AIがあなたの曲に似たハーモニーを生成 → “寄与率”でロイヤリティ
  • あなたの楽曲スタイルが学習に影響 → 数式で還元率を計算

的な将来が来るかも知れないですね。日本は時間がかかるかも知れないですけど、これもアメリカとヨーロッパ次第ですかね。

さらに、AIの関与が細かくIDとしてクレジットされるのに、アシスタントがどのように劇伴制作に関与しているのかクレジットされない状態が許されるはずもないので、映画のエンドロールはどんなクレジットになるかわかりませんが、納品するWAVデータやJASRACの登録にもっと詳細な情報の埋め込みIDが必要な環境になっても不思議じゃないですよね。

劇伴制作に携わったスタッフのIDに英語で1000文字使ったところで、せいぜい1kbか行っても2kb程度でしょ?それをWAVメタデータのフォーマットに必要なオーバーヘッド(タグのフォーマットがいくつかあるんだけど、BWFとか、LIST-INFO、ID3v2なんかは見かけたことあるんじゃないかな?まあ、そのメタデータの管理のための枠みたいなものだね)に100~200バイトくらい必要だとしてもまあ微々たるデータの増加量なので特に心配する必要はないですからね。

というわけでAI界隈の話から、それが現場にどう影響するのかをぼんやり考えたりしました。しかしAIが本格的に使えるようになって3年でこの環境の変化ですからまだまだ移り変わりの激しい世界になりそうですね。

皆さんも最初の元記事をNotebook LM等を使って日本語にしたりするなどして理解を進めてみてください。

瀬川英史(瀬川商店)
劇伴の作曲家やってます。Netflix「シティーハンター」アニメ「烏は主を選ばない」等。シンセは危険物取扱者の甲種レベルの知識あり(多分)。
記事内に掲載されている価格は 2025年11月21日 時点での価格となります
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