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瀬川商店 第51回:VST3に関してのニュース

2025.10.31

今月僕的にはかなり期待度高めのニュースが飛び込んできました。SNSをざっと見ていても僕のタイムラインには上がってこないので、まだ情報が少ないのかなと思ってこの場で取り上げてみます。

まず、結論から先に書くとこれまでVST3プラグインを開発できるリソースが手元にあったとしても(知識、経験、少人数のスタッフ)、これまではSteinberg 社と契約を交わさないと例え無料であっても、他者へ配布したり、GitHubで公開したりできなかったんですね。それがその契約なしに公開できるようになった〜という事ですね。(まだSteinberg社の日本語のサイトにはこの情報がアップされてないみたい)

steinberg Developersページ(英文)

今までVST3 SDKというVST3プラグインのための開発キットは無料で入手できたのですが、いざプラグインを開発した後に「Proprietary Steinberg VST3 License」を契約しないと配布できなかったんです。ProprietaryとPropertyって似てるけど、使われる場面と意味が違ってくるんですね。

プロパティ(property)→ 意味:財産・所有物・特性・属性。

  • 一般:不動産などの「財産」。
  • IT/プログラミング:オブジェクトの「属性」(例:車の色・速度)。
  • ファイル:サイズや作成日などの「属性情報」。

プロプライエタリ(proprietary)→ 意味:独占的・私有の。

  • IT/ソフトウェア:企業や個人が権利を独占し、仕様やソースコードを非公開にしている技術や製品。
     例:Microsoft Windows、Adobe Photoshop。
  • ファイル形式:企業専用で仕様が公開されていない形式。

で、今回そのプロプライエタリって〜やつがかなりオープンになったわけです。

そしてその無料で公開するための基盤となっているのがMITライセンス。僕も専門じゃないので詳しくはないんだけど興味がある人は以下のリンクへどうぞ

MITライセンスは世界で最もシンプルで寛容なオープンソースライセンスのひとつで、開発者にとって非常に使いやすいライセンスです。シンプルにまとめると以下の通り。

MITライセンスは、誰でも自由に以下のことができます:

  1. ソフトウェアの使用(Use)
    商用・非商用を問わず、自由に使うことができます。
  2. コピー(Copy)と配布(Distribute)
    ソースコードやバイナリ形式で自由に再配布できます。
  3. 修正(Modify)と改変版の公開(Publish)
    自分でコードを変更して、自分のプロジェクトとして公開することも可能です。
  4. 商用利用(Commercial Use)
    企業がMITライセンスのソフトを使って製品を販売しても問題ありません。

そしてその表記の仕方はライセンス文を、配布物やソースコードに残しておけばそれでOKなんだって。※以下はThe MIT Licenseにあるライセンス文の抜粋

「Copyright (c) [著作年] [著作権者名]

Permission is hereby granted, free of charge, to any person obtaining a copy…」

そして、以下の文言も必ず入っていて、

“THE SOFTWARE IS PROVIDED “AS IS”, WITHOUT WARRANTY OF ANY KIND…”

まあ要はこのソフトウエアは現状のまま(AS IS)提供されて、バグがあっても開発者はその責任は問われませんよ、という内容なの。

Steinberg社はこれまでGPLという配布に関してかなり制約があるライセンス形態にのっとっていたので、Steinbergにソースの公開もしなくちゃいけなかったし、プログラム書いてる方からしたら、ネタばらしもしなきゃいけないけど、配布の登録もしなきゃいけないとか、個人とか小さいチームには負担だったわけですね。

今回それがオープンになった理由の一つに2022年にリリースされたCLAP(Clever Audio plug-in format)という、劇伴の作曲家はだいたい皆んな使っているソフトシンセのメーカーであるU-he社、それからDAWメーカーのBitwigらが推奨している”最初からMITライセンス(MIT licensed from day one)”のプラグインフォーマットの存在があるみたいです。実際Steinbergがどこまでそれを意識していたのかは僕には分からないけどね、、、。

とにかくインディーズ系の開発者や例えば日本の大学みたいに闇雲に利益追求の立場がとれないオーディオ研究開発をしているセクションから新しいプラグインがリリースされる機会の足枷になるものがなくなったので、AIのコーディングの進化と共にVST3のプラグインのリリースが加速されるのかも、、、ね。ユーザー的にはネガティブな要素はほとんどないかなあ〜。

あえてネガティヴな要素を挙げるとすれば、インストールして使うユーザーの自己責任の範囲が広がったと言えるわけです。例えば開発のハードルが一番高いのはProToolsが採用しているAAXフォーマットだと思うけど、ハードルが高いゆえに信頼性も高くて、そのおかげでProToolsの書きだしはオフラインバウンスでもオンラインと全く同じデータを書き出せてるわけです。オーディオにおけるバウンスの精度ってクロックの問題やビットの世界の話らしくて、それはそれはかなりの技術が必要らしい、、、。

今後、仮にクールなVST3プラグインを見つけたとしても、オフラインバウンスしたオーディオのクオリティと、Instrumentトラックから、バス経由でアサインして内部のオーディオにプリント(状態としては録音なんだけど、英語ではPrintすると言います)した音質とを自分で比較する必要が出てきたとも言えるわけです。

個人的に冒頭に書いたSDKは過去にダウンロードして使ってみた事はあるんだけど、これを機会にプラグイン開発に再チャレンジしたいな〜と思っている所存です!

参考リンク:ウィキペディア|Virtual Studio Technology (VST)

※本記事は25年10月時点の情報をもとに作成しています。ライセンスや配布に関する正確な最新情報が必要な場合は、Steinberg公式情報や関連ドキュメントをご確認くださいませ。

瀬川英史(瀬川商店)
劇伴の作曲家やってます。Netflix「シティーハンター」アニメ「烏は主を選ばない」等。シンセは危険物取扱者の甲種レベルの知識あり(多分)。
記事内に掲載されている価格は 2025年10月31日 時点での価格となります
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