パラダイス

瀬川商店 第50回:どうしてNuendoを使うのか?

2025.10.24

現在Nuendoがセールになっているんで、ちょっと便乗した記事を書いちゃいます!

劇伴作曲家でCubaseまたはNuendoを使っている人が割合多いように感じます。もちろん正確にアンケート取ったことはないのですが、あくまでも僕の周りではそうだし、LAに住んでる頃もCubaseかNuendoを使っている人が多い印象でした。ただ今回の記事はあくまで劇伴やゲームの仕事をするならば、、、という前提で呼んでください。自分はポップスしか書かん〜という読者には以下の解説はあまり関係がないと思います。

僕は現在Nuendoを使っています。他にも使っているDAWはあるのですが、オーケストレーションが必要な仕事の場合はNuendoしか使ってないです。かなり以前はCubaseを使っていましたがNuendoに乗り換えました。

今週は僕がどうしてCubaseではなくNuendoを使っているのか、その理由をリストアップしてみますね。

1)「大は小を兼ねる」というのがまず最初の理由ですね(笑)CubaseでできてNuendoでできない事はないのですから、あまり深く考えずにNuendoにアップグレードしました。むか〜しはCubaseが新しくバージョンアップされて、その数ヶ月後にNuendoのバージョンアップがリリースされるようなバージョンアップのタイムラグがあったんですが、今はそれほど間を置かずにNuendoもバージョンアップされます。バグフィックのアップデートに関してはどちらも同じタイミングでリリースされます。ですから新機能を使えるまで”おあずけ”されてる感覚はあまりないですね。

2)Nuendoの方がオーディオエフェクトの数が圧倒的に多い。
Randomizer(同じ素材を連続して使っていてもそこにムラを付加してくれる)、VoiceDesigner(どんな声でも即怪獣の声になっちゃう)、Doppler、Pitch Driver、Bass Manager、Post Filterとこの辺の劇伴である便利なエフェクト効果を出せるものが多いんです。僕の場合は割とサウンドデザイン系のトラッキングも多いのでこの辺のプラグインは重宝しています。

3)NuendoだとDirect Offline Processing(DOP)の中に、Pin Processというチェックボタンがあるんです。1つのオーディオ素材の途中の複数箇所にEQやフィルターやディストーションの処理をしたいことが頻繁にあります。映画だとセリフとぶつかるところだけをラジオボイスにしてみるとか、効果音と明らかにぶつかりそうなところのハイパスEQの帯域を調整するとか。そういう作業ってだいたい同じセッティングのEQを使う事が多いんですが、それをPin Processのチェックボタンをクリックしておくと、他のトラックの作業の途中でまた使う事が頻繁にあるんです。他にもオーディオで書き出しちゃったパーカッションのループの特定の金属の響きをEQで削りたい〜みたいな時もPin Processを使ってさくさく作業しちゃいます。

4)イマーシブ系のRoutingがしやすい。僕がCubaseからNuendoへ乗り換えたのはNHKの22.2chというDolby社ATMOSよりももっと自由にサウンドの動きを再現できるシステム用のトラックを書いた時だったはずですが、映像系のお仕事に重宝します。

5)Adaptive Background Attenuation(通称ABA) Toolという機能があるんです。ポストプロダクションに入ると(まあ音楽ってだいたいポスプロですけどw)、セリフと音楽を合わせて監督に見せる事もちょくちょくあります。映像の編集変わると音楽のタイミングも改訂する必要がありますが、音楽とセリフが入ってる状態でムービーを書き出して監督に見てもらうわけですね。もしくは効果音の担当者にそこにデカイ音入るならこっちは間引くよ、みたいなコミュニケーションのためにムービー書き出すわけです(僕の場合はここ数年Frame IOを使って関係者に共有しています)。ただ、作曲の作業と並行してそういうムービーのために時間取られたくなわけですよ(笑)。セリフの箇所だけ音楽を下げるオートメーション書くとかね、面倒だし、、、とまあそんな時にAdaptive Background Attenuationを使うとセリフの後ろで音楽を下げるようなオートメーションを自動で書いてくれて、さらにあとからそのオートメーションは修正できるので、「この辺はセリフと音楽ぶつかるけど、ホラこれくらいならセリフも聞き取れるでしょ?」みたいなところはあとから音楽をちょっと上げとく、みたいな事が簡単にできるんです。Nuendo(Cubaseもだけど)の良いところは二つのPCやMacでライセンス使えるので、そういう作業は作曲と別のMacでやって、作曲の作業が滞らないようにします。

6)「映像に合わせるため」の2MIXのWAVの書き出しってラウドネス意識する必要あるわけです。その一方で、監督や関係者に音楽だけ聞かせる場合もあるわけです。ドラマだと撮影の合間に監督が現場でPCのスピーカーで聞いたりするので、それ用の2MIXはポップスほどじゃないにしても、それなりにレベル入れておきたいわけですよね。最近だと移動中にスマホで聞かれたりもしますからね。でも、監督と選曲さんが音楽打ち合わせ(通称”音打ち”と呼ばれる)をする場合はセリフと一緒に見せるわけですから、-24LKFSのIntegrated Loudnessで書き出しておけば、選曲やさんの方で音楽を-12db下げてミックしたりしなくてすむわけです。この辺の話は現場の経験がないと難しいかもしれませんが、いずれは-24LKFSの書き出しが必要になるわけですが、Nuendoだと、それ用のノーマライズ機能があるのでこれまた助かるわけです。


他にも多々ありますが、映像に音を付ける仕事をしているのであればNuendoにして損する事はまずないと思いますよ!

瀬川英史(瀬川商店)
劇伴の作曲家やってます。Netflix「シティーハンター」アニメ「烏は主を選ばない」等。シンセは危険物取扱者の甲種レベルの知識あり(多分)。
記事内に掲載されている価格は 2025年10月24日 時点での価格となります
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