
作り手が欲しいと思ったアイデアを独自のアプローチで探求する日本のシンセブランドSDKC Instrumentsの取扱を開始!
ブランド誕生の背景から、Helicalの核となる「自己回帰」という発想、ランダムとの違い、そして「人間が演奏するとは何か」「そもそも楽器とは何か」という問いまで。開発者自身の言葉から、Helicalというユニークな楽器の思想と、その先に広がる可能性を紐解きます。
Rock oN(以下、R):まず、SDKC Instrumentsがどのように始まったブランドなのか教えてください。モジュールを設計するうえで大切にしている考え方などもありますか?
SDKC(以下、S): もともと高校生の頃からエフェクターが好きで、大学に入ってからシンセサイザーやモジュラーシンセサイザーに興味を持つようになりました。
ただ、学生の頃に買えるようなものではなかったので、当時はMax/MSPを使って、自分の欲しいシンセサイザーやエフェクターを自作していました。
社会人になって少し余裕ができてからモジュラーシンセを始めたのですが、文字通り沼に落ちて、一時期は狂ったように買い集めていました。
そんな中でコロナ禍になり、仕事も在宅が多くなって、飲みにも行けなくなったので、「何かDIYで作ってみようかな」と思ったのが、今の活動の直接的なきっかけです。
最初に作ったのが16n(16n Faderbank)でした。最初はアクリルをカットしただけのものを作っていたのですが、せっかく作るなら見た目もしっかりしたものにしたいと思って、アルミのヘアライン仕上げのパネルを作ってくれる工場を探しました。
ただ、最小ロットが50枚と言われてしまって。800本もフェーダーはいらないので、「じゃあ販売してみよう」となって、メルカリやヤフオク、Reverbなどで販売を始めたのがSDKC Instrumentsの始まりです。
16nを作ったり、個人的に欲しいものをいろいろ作ったりしているうちに、基板の発注方法など、ハードウェアを作るための知識やノウハウも少しずつ溜まってきました。それならオリジナルのモジュールも作ってみようと思い、当時少し開発していたアルゴリズムを発展させて制作したのがHelicalです。
なので、最初から「こういうメーカーにしよう」という明確な設計思想があったわけではありません。コロナをきっかけに、その時々で自分がやりたいこと、欲しいものを作っていたら、いつの間にかここまで来ていた、という感覚に近いです。


Helicalのプロトタイプ
R:そのHelicalは、どのような発想から生まれたのでしょうか?
S: コロナ禍に、いろいろなプラグインのアイデアをメモのように書き留めていたのですが、その中に「音の長さと周波数は、どちらも単位に時間が含まれている」というものがありました。
例えば、音の長さは秒で表現できますし、周波数はHz、つまり1秒間に何回振動するかという単位です。
どちらも「時間」という共通の概念を持っているのであれば、音の高さと長さをお互いに影響させるようなことができるんじゃないか、と考えました。
最初は単純なアイデアだったのですが、これをどうにか楽器として成立させられないか、と考えながら発展させていったのがHelicalの始まりです。

R:Helicalの大きな特徴が「自己回帰(Autoregressive)」による生成です。一般的なRandomやProbabilityを使ったGenerative Sequencerとは、何が違うのでしょうか?
S: ランダムや確率によって作られる音楽は、予想を裏切る結果が生まれる面白さがあります。一方で、常に音楽的な結果が得られるかというと、そうではなく、場合によっては単なる音の羅列になってしまうこともあります。
Helicalの「自己回帰(Autoregressive)」は、名前の通り、過去に鳴った音をもとに次の音のパラメーターが計算されます。
つまり、次に鳴る音が完全に独立したランダムな結果として生まれるのではなく、「今鳴っている音が、過去からの連続によって決定されている」という点が大きく異なります。
そのため、一つ前の音だけでなく、それまでに鳴ってきた音の流れが、これから鳴る音にも影響していきます。
結果として、偶然性を持ちながらも、ある種の「文脈」の中で音が変化していくような動きが生まれます。

R:では実際に、過去に生成された音は、その後の演奏にどのような影響を与えるのでしょうか?
S: Helicalでは、過去の音の高さが次の音の長さを決定し、過去の音の長さが次の音の高さを決定します。
つまり、「高さ」と「長さ」がそれぞれ独立して変化するのではなく、過去に鳴った音の情報が次の音のパラメーターに引き継がれていきます。
そのため、最初に入力した音や演奏した音が、その瞬間だけで終わるのではなく、その後の音の生成にも影響を残していきます。
例えば、ある音を長く鳴らしたことで、その後に生成される音の高さが変化し、さらにその高さが次の音の長さに影響する、といった具合です。
こうした相互作用が連鎖していくことで、単純なランダムとは少し違った、過去から現在、そして未来へ続いていくような音の流れを作っています。

R:Helicalの「Scale」は、一般的なスケール/キーとしてだけでなく、コードやハーモニーを定義するためにも使えるのでしょうか?
S: 一般的なスケールの場合、例えばメジャースケールを選択すると、「1、2、3、4、5、6、7」という使う音が決まり、CVやMIDIなどの入力がその音程にクオンタイズされる、という仕組みだと思います。
ただ、そこに人間の意図が介在しない入力が入ってきた場合、単純にスケールへクオンタイズするだけでは、音楽的な中心が失われてしまうことがあります。
そこでHelicalのScaleには「Root Emphasize」という機能を入れています。
これは、一番下のオクターブと、それより上のオクターブで使用するスケールを変えることができる機能です。
例えば、一番下のオクターブに「1、5」と配置しておいて、その上のオクターブでは「1、2、3、4、5、6、7」とすると、メジャースケールの音を使いながら、1度と5度を強調することで、1度を中心とした感覚を保ったまま演奏することができます。
また、Helicalの出荷時プリセットの後半には、「ⅠM7、Ⅱm7、Ⅲm7、ⅣM7……」というプリセットも入っています。これらを利用することで、単純にスケールを演奏するだけではなく、コードやハーモニーを意識した演奏もできます。
個人的には、HelicalのScaleは「正しい音にクオンタイズするための機能」というよりも、システムの中に音楽的な中心やハーモニーを作るためのものとして考えています。
R:初めてHelicalを使うユーザーに、おすすめのシステム構成はありますか?
S: 自社のモジュールで恐縮ですが、先日発売したBootleg #1.1との相性が非常に良いと思っています。
基本的なモジュレーションソースとランダムソースを、とにかくたくさん繋いでみることをおすすめします。
特に、Envノブにランダムソースを入れたり、Rootに少し速めのLFOを入れたりすると、かなり面白い効果が得られます。
R:Helicalを設計するうえで、「人間が決める部分」と「システムに任せる部分」はどのように考えましたか?
S: これはHelicalを開発する際に、かなり意識していた部分です。
Helicalのようにアルゴリズムによって音を生成する「機械」や、ランダム・シーケンサーのようにシステムがあるルールに従って音列を生成する「機械」について考えたとき、「果たしてそれは楽器なのだろうか?」という疑問が出てくると思います。
もしシステムの設計意図だけで音が決定されてしまうのであれば、そこに人間が介在する必要はありません。それは楽器というより、ある種の自動演奏機械だったり、Apple Musicのランダム再生と何が違うのだろう、と考えることもできます。
この問いは突き詰めていくと、ピアノだってギターだって、製作者が考えた仕組みや制約の中で、出てくる音がコントロールされているのではないか、という問いになってくるかもしれません。
重要なのは、アルゴリズムや仕組みが存在すること自体ではなく、そのアルゴリズムの設計意図から、演奏者がどれだけ抜け出せる余地を持っているかだと思っています。
Helicalでは、そのバランスをかなり意識して設計しました。システム側がある程度の制約や振る舞いを持ちながらも、ユーザーの操作や判断がきちんと出音に反映されるように、パラメーターの設計や可変幅を調整しています。
「何をもって楽器と定義するのか」という問いに対する答えは、私自身もまだ出せていません。
ただ、Helicalを触りながら、「自分が演奏しているのか、それともシステムが演奏しているのか。これは楽器なのかな」といったことを、少しでも考えてもらえたら嬉しいです。
そういう意味でも、最近、フランスのシンセサイザーブランドcyma formaが「Rnd」という製品を発表しました。あの「楽器」は、まさに今話した問いに対する、ひとつの極端な回答、あるいは新しい問いそのもののように感じました。個人的には非常に強く感銘を受けています。
「ワンボタンで42億通り」というキャッチフレーズでワクワクできる、cyma formaの「Rnd」
https://www.cymaforma.com/rnd-synth
R:Helicalをどのようなミュージシャンに使ってほしいですか? アンビエントだけでなく、Techno、Jazz、Hip-Hopなどで使われる可能性についてはいかがでしょう?
S: もちろんアンビエントには即戦力で使えると思うのですが、特定のジャンルを想定して作ったわけではないので、このジャンルで使ってほしいというのはあまりありません。
ただ、Helicalには、既存の音楽で一般的に使われているような「グリッド的な音価」という単位が存在しません。例えば「4分音符を鳴らす」というような考え方ではなく、音の長さそのものが次の音の生成に影響していきます。
なので、既存の音楽的な時間軸に無理に合わせるのではなく、Helicalにしかない時間の流れを活かした演奏をしてもらえると面白いと思っています。
R:ユーザーから、開発時には想定していなかった使い方を見せられたことはありますか?
S: やはりアンビエント・マシーンとしての印象が強いのか、そのような使われ方をしている方が多いのですが、ノイズ・マシーンとして使われている方が何人かいて、個人的にはかなり嬉しかったです。
楽器を作る側としては、どうしても「こう使ってほしい」という想定を持ってしまうのですが、実際にユーザーが触ったときに、その想定から外れた使い方をしてくれるのは、楽器を作る面白さの一つだと思っています。
R:最後に、SDKC Instrumentsとして、これからどのような製品やアプローチで可能性を探求していきたいですか?
S: 今後も、何か音楽的な問いを実際に形にして、それについてユーザー自身が考えたり、体験したりできるような製品を開発していきたいと考えています。

今更ですが、sdkc Instruments = 定吉(sadakichi)楽器さんです。






