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ELEKTRON Interview 後編〜 Digitoneは最高のFMグルーヴボックス〜

2024.10.08

みなさんこんにちはACID渋谷です!この記事はELEKTRON 本社訪問インタビューの後編です。前編をお読みでない方はぜひご一読をお願いいたします。 それでは後編をどうぞ!

なぜ、FM を選ぶに至ったのか

J:製品の仕様がすべて決まって、開発のGoサインが出てからと考えると、そうですね、大体…開発期間は 8 ヶ月…9 ヶ月? そのくらいでした。まず、社内には「プロダクトボード」とか「オーディションボード」と呼ばれるグループがあり、年に 2、3 回の割合で集まって、会社中から集めたアイデアを議論します。そこからコンセプト・レンダーとともに雛形を作り、それはそれは膨大なレジュメが出来上がります。これらについてプロダクトボードで徹底的に議論し、リリース可能な時期や、どのくらいの時間が掛かるかについての会議に戻します。

オフィスの至る所にアートピースや写真が何気なく飾られておりELEKTRONのセンスは社内で醸造されていることを物語っている。

Digitone は非常に早急にこのステージを通過しました。なぜならDigitaktに相棒が必要だということは既に分かっていたからです。DigitaktのFMシンセサイザーバージョンはどうかといったものもあったようですが、シンセサイザーを作るべきだということはかなり初期の段階で決まっていました。FMシンセサイザーにするということが決まるや否や、全員が一層 Digitoneの開発に集中して作業し始めたんです。

R:誰がFMをやりたいと言ったのでしょうか。

(一同 : 沈黙、顔を見合わせて…爆笑)

S:誰が言いだしたんだっけ? (笑)

DigitoneのコンセプトにFMを推したサイモンは腕にFM波形のタトゥーを入れるほどFMに心酔している。

J:サイモンがたくさんのよいアイデアを出していたと思います。みんな「イェー!」って言ってたと思うし、スマートな提案に思えました。さらに、それはマーケットのギャップを埋められるもので、実際のところほかのどこもこうしたプロダクトを持っていませんでしたから、その時のセッションはとてもよいものだった記憶があります。

製作中のスタジオルーム。TANNOYのラージモニターが設置されておりプリセット作成や皆で新しい音楽を聴いて楽しんだりするそうだ。

S:FMマニアの動向をずっと追いかけてるんだ。日本語は分からないんだけどね。確かに、アナログ・フィルターを備えたウェーブテーブル・シンセもあるけど、ぼくらはデジタルで何かを作りたかったから、そちらの方向には行かなかった。フィジカル・モデリングについては、とても興味深い領域だけど、もっと大掛かりなプロジェクトになる。なぜ FM を選んだかについては、それが技術的に確実なもので、時代的にまさに今がそれをやる時だと感じたからなんだ。

Digitone ではクレイジーな サウンドも音楽的にワークする

雨に煙るヨーテボリ郊外の工場地帯の街並みとDigitone。

J:とてもたくさんの側面、領域をカバーしている点です。減算合成の考え方でも、FM の世界の考え方でも扱えます。エフェクトもシーケンサーもあります。異なるコンポーネントがひとつになることで、より大きなものになっています。これは素晴らしいことだと思っています。あらゆる小さなアプローチを集めることで、とても開かれた自由なプロダクトを作ることが出来ました。その結果、ユニークなプロダクトになったと思います。頭の先からつま先まで、すぐにそれと分かる個性があって、そのサウンドも信頼に足るものになっています。

オフィス内の動画撮影フロアの奥にはレアなMXR DRUM COMPUTERなど大量のシンセやリズムマシン、コンパクトエフェクターがある。このRoland TR-909は「1時間以上使うと火が出る」そうだ。

S:おぉ、素晴らしい回答…これ以上何も言えないよ。僕にとっては、結局これは素晴らしい FM グルーヴ・ボックスってことなんだ。何年もの間、ぼくはこういうものが欲しかった。イケてるシーケンサーが付いたドンピシャな FM シンセサイザーで、しかもサウンドが素晴らしいっていう機材がね。

O:私が気に入っている点は、Digitoneが2つの側面を兼ね備えているところです。欲しいと思ったサウンドをいつも得られるだけでなく、ノブを回せば何か違うことが起こります。すでにイメージの中にあるサウンドと、まるで予期していなかったサウンドの両方を得ることができ、そしてその結果がいつでも音楽的なんです。

雑談スペースのデスクにはジョンのお気に入りのE-MU PROTEUS 2000やDATO DUOなどが置かれていた。機材の組み合わせや奇妙なセッティングからアイディアを閃くこともあるそうだ。

S:音楽的であるということは、本当に大切な目標です。スーパークレイジーなサウンドに到達することもできるけれど、それが音楽的なものになってるという。そうあって初めて本当に音楽的にワークするんだと思います。

J:もうひとつ思い浮かぶのは、Digitoneがひとつの全体として機能することができる、ということです。これはDigitoneがそれだけでひとつの曲を制作出来るだけの幅広さを持っているという、誇り高いELEKTRONのレガシー・マシンの系譜に則っているということです。Digitone だけでひとつのアルバムを作ることができます。チップチューン・ミュージックの場合はなおさらですね。それだけでなく、Machinedrum、Monomachine、Octatrack、Analog Four、Analog Rhythm、そして Digitakt といった機材と一緒に使うこともできます。それらをまるでワンボックスのツールのように使うことができます。しかし、そのサウンドが気に入ったならDigitoneの他に何も使わなくても曲が作れるということです。

ELEKTRONオフィスには大小様々な部屋が点在する。このまるで高校の部室のような部屋ではおしゃべりをしたり古いゲームをしたり、ジャムをしたりして楽しんでいるそうだ。

次に見ているのはどの未来!?

J:とても難しい質問ですね。何故って、開発中のプロダクトの話になってしまうからです。

S:コーヒー・マシンかな。全自動のね!

J:あくまで個人的な話で言えば、私が好きなのは AKAI、E-MU、ENSONIQ ASR-10 などのオールドスクールなサンプラーです。こういうオールドスクール・サンプラーをとても愛しています。

S:もし、時間とプロセッシング・パワーが無限にあるとすれば史上最強のフィジカル・モデリング・シンセを作りたいです。YAMAHA VL-1 のようで、しかもポリフォニックで、ドープなグルーブボックスでもあるような…。実現できるかはわからないけど、最高にクールなもの。

物理モデリング音源を搭載した世界初のバーチャル・アコースティック音源 YAMAHA VL-1。演奏者にフォーカスされたインターフェースとクラシック楽器にも引けを取らない独特のルックス、自然楽器とまったく同じ発音原理で仮想楽器を本体内で創出する異次元のモンスターシンセ。あくまで「リードが取れる楽器」にこだわり2音ポリだった。

O:これまで存在したすべてのシンセサイザー・エフェクトを、ひとつのバーチャル・リアリティの中で使えるようなものがやりたいです。その中でそれらを組み合わせたりすることができて、既存のものから新しいものを作ることができるような機材です。

J:『マトリックス』みたいな感じ?

J:AI はとても興味深い領域ですよね。私たちみんなに関係する非常に大きなトピックです。自動で作曲をしたり、ソフトウェア・コンポーネントを生み出すAIシーケンサーが出てきたらすごいことです。このテクノロジーにはとても大きな期待が持たれています。作曲だけでなく、バッチングによるサウンド・デザインやミキシング、ユーザーがやらなければならない作業は半分以下に減るでしょうね。

カフェスペースにあるアートピース。Analogシリーズが登場した頃に書かれたものだそうだ。

S:AI に関する望ましいシナリオとしては、それらが「クイック・ボット」として機能するというのがあるよね。これまでよりはるかに短い時間で、一番効率のいい道筋を知ることができる、ということ。例えば AI 同士をゲームで対戦させて、一番効率的な勝ち方を見つける、みたいなね。そんなのは体験としてはフェイクでしかないけど、確かに望ましいストーリーだと思う。

J:まず、この長いインタビューを最後まで読んでくれてありがとうございます (一同: 笑) そして、地球の裏側のこんな小さなヨーテボリという街のメーカーに、大きな関心を払ってくれていることに心から感謝しています。

音楽そのものを楽しむことを忘れないELEKTRONはレコードレーベル Elektron Grammofon も発足。英シェフィールドのWARP RECORDSで活躍するエレクトロニカデュオPlaidやUKアンダーグランドテクノサウンドのパイオニアNeil Landstrummらが名を連ねる。

S:どうか、FM シンセに対する美しい気持ちをいつまでも忘れないでください、ぼくのように。 そして、ぼくらの作っているものを愛してくれて、ありがとう。

O:音楽を聴き、作ることを愛していてくれてありがとう。

S:うわ、効率的なコメント!

O:もちろん (一同: 爆笑)

移設されたばかりの新しいオフィスで行われた今回のインタビュー。訪れたのは SUPERBOOTH18 直前で、スタッフが慌ただしく準備する中でもキャラクター豊かな 3 人の開発陣が快く取材に応じてくれた。どの製品にも言えることだが、リリースされた Digitone にも ELEKTRON らしさが溢れているのは、3 人がもともとヘビーユーザーであったからこその愛情や熱意が注がれているからではないだろうか。世代を重ねて紡がれる ELEKTRON の DNA はこれからもここヨーテボリで受け継がれていく。

この後夕食に訪れたレストランではでは3人がそれぞれオススメのメニューを熱くプレゼンしてくれ選ぶのが大変でした。

いかがでしたでしょうか?製作者の情熱や想いに触れるとより一層マシンが愛おしく思えてなりません。みなさんご存知の通りDigitoneは大ヒットして、他に類を見ないFMマシンとして今も現行です。ちなみにインタビューに答えてくれたうちの一人、サイモンはこの後model:samplesのUI開発、model:cyclesのUI及びシンセエンジンのデザインを経てELEKTRONを退社。2020年にプラグイン及びMAX for liveのデバイスを専門に扱う先鋭的なソフトシンセブランドFors FMを立ち上げ活躍を続けています。彼のインタビューも後日公開予定ですのでお楽しみに!

SYNTH HEAVEN by ACID渋谷
古今東西のシンセ情報を掘り下げます。シンセ系メーカーのインタビューも敢行予定!
記事内に掲載されている価格は 2024年10月08日 時点での価格となります
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