こんにちは!ACID渋谷です。今回もWEB初出しとなるProceed Magazine2018-2019号に掲載されたELEKTRON本社訪問インタビューをお届けいたします。この時はちょうど同社のFMマシンDigitoneが発売された直後でした。ELEKTRONの若き開発者たちの当時の熱気を感じて貰えたら幸いです。それでは参りましょう!
スウェーデン第2の都市ヨーテボリ。OVERBRIDGEの語源となった橋の眼前にELEKTRON MUSIC MACHINES本社がある。本邦初公開となる移設後間もない新オフィスで取材に応じてくれたのは、世界的に注目された新世代FMシンセDigitoneの開発スタッフ3名。誠実で自分のアイデアをことばにすることを惜しまないジョン、明るいキャラクターでとにかくよく笑うサイモン、クールで効率的なオスカーと、個性豊かな3名が語るELEKTRONとシンセへの熱い想いをインタビューした。 —2018年5月 SUPERBOOTH18直前の訪問記です。
Rock oN Acid渋谷 (以下、R):今日はありがとうございます。まずはみなさんの自己紹介をいただけますか。
Jon Mårtensson (以下、J):CPO (チーフ・プロダクト・オフィサー)をしているジョン・マーティンソンです。プロダクトのコンセプトやプランニング、それから開発の下流の段階にあたるインターフェースの設計、つまりボタンの配置やユニットの構造を担当しています。
Simon Mattisson (以下、S):プロダクトデザインチームでコンセプトの部分を担当しているサイモンです。主にプロダクトがどのように動作するか、するべきか、という部分に関わっていて、プロトタイプの制作やシンセサイザーの振る舞い、DgitalktやDigitoneのGUIの開発などに携わっています。
Oscar Albinsson (以下、O):オスカーです。DSPエンジニアで、エフェクトのアルゴリズム開発のためにコードを書いたり、サウンドのコーディングを担当しています。時々、サウンドジェネレーターのためにアナログ回路の設計もします。
R:皆さん、ヨーテボリのご出身なんですか。
一同:はい。そうです。
S:ヨーテボリはとてもエキサイティングな街ですよ、ELEKTRONもエキサイティングな楽器をリリースしてます。私はシンセサイザーに夢中で、18歳の誕生日に Monomachine を購入してから本当によく使っていました。そこで、私が育った街のELEKTRON での仕事に応募したんです。
J:私もある時、機材をアップデートするために中古のMachinedrum を購入したのですが、それが本当に素晴らしくて、そこから ELEKTRON に興味を持つようになりました。その後 Monomachine、Sid Stationも購入して散々いじり倒しましたよ。
R:もともとは皆さん ELEKTRON を知り尽くした熱心なユーザーだったんですね。では ELEKTRONのプロダクトはこうじゃなければ!!というものもありそうですね。
J:電子楽器というプロダクトにとって本当に大切なことのひとつは “Something New” ということだと思っています。これまでに手掛けてきたものの単なる焼き直しではなく、何か新しいものを提供する (“something new is brought to the table”) ということが重要です。過去にインスパイアされながらも、そのプロダクトをユニークでプログレッシブなものにする新しい何かを付け加えます。私たちのプロダクトのすべてに注がれている、この「何か新しいもの」への情熱こそが ELEKTRON のポリシーと言えると思います。
S:その意見に私も賛成です。私のいるポジションでも、まさにすべてのプロダクトに何か新しい視点やコンセプトを発見しようとする試みがあります。シーケンサーのワークフローや、個々のコンポーネントをどのように統合するか、全体をどのようにデザインするか… Develop & Design 部署のすべてのメンバーがすさまじい集中力を発揮して、本当に素晴らしいマシンを生み出したいと考えていますね。
O:ディテールに至るまで注意を払ってるよね。
S:その通り。まあ、僕は君ほどこだわっているとは言えないかもしれないけどね(笑)
一同:(爆笑)
J:もちろん、サブセットやコンシーケンスにはこだわりますが、一番大事なことは「使っていて楽しい」ということです。凝りすぎて使いにくかったり、メニューの奥深くまで行く必要があるのはよくありません。設定や接続が簡単ですぐに使えるように、分かりやすい見た目、GUI をデザインするよう心がけています。そして、同様に重要なことは ELEKTRON らしさ (“ELEKTRON-NESS”) を加えることです。そのプロダクトが ELEKTRONのDNAを受け継いでいることを表現するデザインもまた、プロダクトの大切な要素なんです。
R:なるほど、ユーザーの直感的な使いやすさは大切ですよね。
J:機材の使い方を見たり知ったりするための一番簡単な方法は、Youtube を見ることだと思うんだ。何でもいいから片っぱしから見ていくと、自分たちのサウンドを生み出すためにぼくたちが意図してなかった方法でマシンを使っていたりする。ぼくも実際にSpace One でオールドスクールなサンプラーのタイムストレッチをエミュレートするために使っているのを見たことがあって、普通のループから始まってたんだんモジュレーションを掛けて行くんだけど、とてもクールなトリックだと思ったよ。ぼく自身はそういう使い方が出来るなんて思いつかなかった。でも、誰かがそんな風に使っているのを見て、このパラメーターではそういうことが出来るんだってことを知ったんだ。
O:そういうトリックについてはユーザー同士のフォーラムで活発に公開されています。2、3年前くらいから私たちの運営する「ELEKTRONAUTS」に「ELEKTRON USERS」という有志のフォーラムがあり、ユーザー同士がトリックをシェアしていました。中にはとってもおかしなワークアラウンドやアプローチもありましたが、それも含めてユーザーが楽器をそれぞれの使い方で楽しんでくれているのを見るのがとても嬉しかったです。
R:ELEKTRONAUTS は開発の皆さんにも重要な情報ソースだということなんですね。
J:そうです。今話したように、今やユーザーの層が非常に厚いため、開発者でも気付かないような使い方がどんどん出て来ます。そうしたものを開発に取り入れたりもしています。
R:それでは、先日リリースされたDigitone 開発のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
J:ひとつめは Digitakt のリリースです。私たちはDigitaktをリリースしてすぐ、その兄弟分となるシンセトーンをジェネレートすることが出来るものが必要だと感じました。最終的には FM 音源を使用することになったのですが、FM についての素晴らしいナレッジを持っているサイモンが頑張ってくれました。FM をシンプルに使用出来る形で提供できれば、Digitakt にとって本当に素晴らしいコンポーネントとなると考えたのが Digitone に着手することを決めたきっかけです。FMは長いこと注目を受けずにいて、しかも扱いづらさについては定評があります。だからこそ、これはFM復興のいい機会になるとも考えたんです。
S:最近では、市場のアナログ回帰志向は減少して、関心は再びデジタルに向き始めています。こうしたサイクルがマーケットにはあります。今はまさにFMをもう一度みんなに紹介する最高のタイミングだと思いました。
R:どうして、そんなにもFMを愛しているのでしょうか。
S:FMはあるサウンドを別のサウンドへ変化させていく方法論のひとつです。求めるサウンドを追求する過程は音で彫刻を制作するようなものです。ぼくは FM から出てくるトーンが楽しいんです。特に Digitakt の開発で、私はサウンドデザインを担当し、すべてのファクトリーキットを制作しました。Digitakt はクールなアナログ・ドラムマシンとして受け入れられましたが、FM バッチで複雑なレイヤーを組むこともできます。とてもバーサタイルで、音作りを楽しめるマシンなんです。
R:ちなみに、DX7が発売された時にはまだお生まれになっていないですよね?
S:そうですね(笑)
R:お好きな FM マシンは何でしょうか。
S:Digitone で(笑)Digitone以外だったら AbletonのOperatorもFMをうまく実装していると思います。とても簡単に使えますし、ハードも不要です。
R:ELEKTRON のサイトでは “Digitone represents our vision of how FM synthesis can be revitalized and modernized.” という記述がありますよね。
J:このことばには、FM にアプローチすることで作曲を今よりもっともっと手軽なものにする、という意味が込められています。かつてDXやFS1Rがそれを実現したように、FMのようなあまり馴染みがなかったものをずっと手軽に扱えるようにするということです。Revitalize、Modernize というのは、FM という以前から存在する基盤技術に再び光を当てる、そのあり方を再考する、という意味が込められています。
O:また、フィルターセットのコンビネーションなどにも工夫があって、シンセサイザーというよりサウンドジェネレーターに近い方法論を採用しています。
S:もちろん、シンセサイザー的な方法論も取り入れています。トラディショナルな FM シンセサイザーは、多分にモジュラー的な構造を持っていて、これはサウンドデザインにとってはとても便利です。しかし、作曲をしたい時にはとても面倒です。だから、まさに完璧な中間 “Sweetspot” を見つけることがゴールでした。オペレーターについては効率性と利便性を考えて、エンベロープはアタックとディケイのみのシンプルな構成にしました。エンベロープはFMのための特別なデザインで、フェードイン/フェードアウトを施してもモジュレーションは保持されるようになっています。オペレーター同士の接続を記憶するクレバーなマッピング機能も搭載しました。
こうすることで、各オペレーターがファンクションの一部のように機能することを可能としており、ノブを回すだけでトーンシェイピングのような効果を得ることができます。その結果、FM の面白さを保ったまま、サウンドの微調整ができるようになったわけです。ただノブを回すだけでパラメーターをコントロール出来るというのは、少なくとも僕にとってはとても大事な機能です。皆さんも、ノブを回して「Oh, Yeah…!」っていうのが好きでしょ? (笑)
R:大好物です!!
S:僕らが実現したかったのは、イメージ通りのサウンドが作れる機材というよりも、まずはいじり倒したくなるようなプロダクトに仕上げることでした。トラディショナルな FM で、例えばベースドラムの音を作りたかったら、「う~ん、まずはアルゴリズムを考えなくちゃ…」ということになるでしょう? それをすべてのステップで繰り返さなきゃならない。
R:Digitakt からは、製品に使われている部品が代わり、エンコーダーの解像度が上がったと感じています。
O:それはハードではなく、ソフトウェアの改良ですね。エンコーダーはデジタルですが、以前の製品と比べて高い解像度としました。以前のようにノブを押しながら回すようなことをしなくても済むようになっています。
R:そうした改良は Digitone においてもよい結果が得られたのでしょうか。
J:そうですね。より自然にノブを回した分だけパラメーターも変化しているフィーリングが得られるようになったと思っています。
O:付け加えると、このエンコーダーの部品はこれまでのものより長持ちしますよ。
R:ELEKTRON のすべての製品にはエンコーダーがついています。やはり、こうしたノブがお好きなのでしょうか。
J:全部!? Analog Heat はポテンションメーターしか…いや、両方付いてましたね…。ポテンションメーターは最大値と最小値で止まる仕様でとても便利ですが、ノブの物理的な位置と内部のパラメーターの値が紐付いているため、キットを切り替えたりした時にはエンコーダーの方がより便利ですね。エンコーダーを有効に配置したいというのは、いつも考えていることです。
S: 僕はポテンションメーターが嫌いです (笑) もちろん、Analog Heat は素晴らしいプロダクトで、その中でポテンショメーターは重要な役割を担っていることは分かっています。でも、ぼくはシンセをバッチするのが好きなのに、ポテンショメーターがあるとみんなプリセットばかり使うからね。
J:Analog Four を例に取ると、アクセスしなければならないパラメーターは、完全にアドバンスなアナログシンセのレベルに達しています。すべてのパラメーターに個別のポテンションメーターを与えたら、それはもうジャングルの中で1本の木を探すくらい不都合なことです。最後までアクセスしたいノブを見つけ出すことも出来ないでしょう。キットの切り替えのために使うくらいが、ポテンションメーター / エンコーダーの適切な配置の仕方ではないかと考えています。
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