Rock on ShibuyaのVツイン多田でございます。今回はSHUREのSMシリーズに新製品が登場したのでレビューしていきます!
SMシリーズはSM58やSM7Bに代表されるStudio Microphoneのファミリーで、今でこそライブの定番となったSM58も、もともとはブロードキャストスタジオでの使用を想定して開発されたマイクなんです。
今回のSM4は同社のKSM32より安価で、PG(Performance Gear)シリーズのコンデンサーマイクより上位のグレードにあたります。
SHURE / SM58について意外と知られていない10のこと
SM4が活躍するステージ、およびコンセプトは最初から決まっていて、ホームレコーディング用、いわゆる宅録の用途にフォーカスされています。
2019年に始まった新型コロナウイルスの世界的流行からはや6年、瞬く間に機材やノウハウが整ったホームレコーディング / ストリーミング環境において、SM4は作品のスケッチ〜仮歌から本格的なレコーディングに役立ついくつもの特徴、機能が備わっています。それぞれを見てゆきましょう。
まずは価格。4万円前後という価格設定は、audio-technicaのAT4040、LEWITTのLCT440 PURE、AKGの C214、Austrian audioのOC16など売れっ子ライバルマイクがひしめき合う価格レンジですが、そこに新たな選択肢としてSM4が加わった事は素直に喜ばしい事です。
お持ちの楽器やご自身の声で似合う似合わないがあるので、音質に関しては是非店頭で試していただきたいですね。
これらのライバルとSM4を実際に試聴してみて、どれも良いなと迷った時、 SM4は価格面で助かるマイク本体+スイベルマウント+マイクポーチのSM4-K-Jと、付属品としてショックマウント、ポップガード、キャリングケースなど一式がセットになったSM4-K-KIT-Jの2ラインナップがあります。
KITに含まれるアクセサリー類は後で購入することもできますので、初期投資を抑えてマイクをゲットする事も、または全部入りでお得にスタートダッシュを切ることもできます。
またアクセサリーの単品販売がある事でメンテナンスも容易です。ショックマウントのゴムなど消耗品も入手できるし、なんせあのSMレンジですぜ!?頑張ればこの先50年使える伝説のマイクになるかもしれません。
SM4は1インチ(25.4mm)の一般的なラージダイアフラムを装備しており、他のライバル同様”わたしコンデンサーマイクです!!”という出立。
私の癖で、新しいマイクが来たら音を出す前にまずグリルのパターンチェックと、なぜかカプセルの目視をするのですが、、、SM4は中に入っているカプセルが目視しにくいです。見たかったぜ1インチダイアフラム。
しかしそれもそのはず、SM4は内蔵ポップフィルターをはじめから装備していて、外側に粗目のメッシュ、そして奥に更に細かい編み込みメッシュのグリルが備わる2段構造なのです。
先に挙げたSM4単品のバージョンを購入しても内蔵ポップガードは文字通り内蔵されていますので、歌は勿論風の出る楽器の収録もそのままOK、高いSPL(145dB@2500Ω)を利用して、ギターキャビネットにもかなり接近してセッティングができそうです。
SM4-KITの方に付属しているマグネット着脱の追加ポップフィルターは更に目が細かく、こちらも目の荒さが異なる2段構え。最も目の細かい部分は繊維生地の様なパターンになっており、風に加えて飛沫からもマイクを守ります。
*裏面
*表面
そしてこの編み込みメッシュはもう一つ大きな役割を担っているのです(下に続く)
Vツイン多田的一押しポイントでございます。
SM4がどの様にRFノイズ対策をしているかは最後に書きますが、そもそもRFノイズってあまり馴染みのない言葉ですよね。RFノイズに強い!のRFってなんなのさ?
RFは略さず言えばRadio Frequency 。ラジオの周波数帯に被っているバンドの事です。
RF帯の周波数定義はフワッとしていますが、EMIも定義するITU基準で言えば3kHz〜300GHzとされており、キロ、メガ、ギガを渡った超広帯域を指します。
SHUREがなぜ今このノイズに着目したのか?
それはこのRF周波数帯にいる、デバイスが必要としていない波長がノイズ、すなわちRFノイズになるからなのです。
身近なものでRF帯の通信を行う機器を挙げると…
・無線マウス: 100MHzくらい
・無線wi-fiとBluetooth: 2.4GHz
通信ではなく、機械が動作している時にRF帯の波長を出す機器を挙げると…
ゲーム機、液晶ディスプレイなどのACアダプタ、一部のLED照明: 50kHz〜500KHz
電子レンジ: 3GHz前後
小型昇降機のモーター、エレベーターに使われるインバーター(VFD):数kHz〜数MHz
RF帯を理解したところで、RF帯なんてほとんど20kHz以上、つまり可聴域外のノイズだし、なんならSM4の周波数特性は20Hz〜20kHzのスペックなのに何が関係あるんだい!と考える方へ、ノイズ大好きVツイン多田が、RF帯のノイズは悪条件が重なると原因究明が難しい可聴域のノイズに変調されて音声信号に乗っかる事をお伝えします。
SM4はコンデンサーマイクです。SM4に限らず全てのコンデンサーマイクは中にこれだけの部品が入っています。
ダイヤフラム(カプセル)
アンプ
トランスフォーマー(無いものもある)
この中のアンプ回路には必ず非線形素子と言われる部品が実装されているのですが、この部品が音声をダイヤフラムでしっかりキャッチするべく、超ハイインピーダンス、超高感度でアンテナの様な状態になって半田付けされています。
そしてRF帯の波長を非線形素子がキャッチした時、変調されて人間の耳に聞こえる(=可聴域の)ノイズとして音声信号に乗っかる事が多いのです。要は誤作動なんです。
余談ですがこのRFノイズ、人工呼吸器や車の自動運転システムなどで誤作動を起こした場合は命を奪ってしまう可能性のある問題なので、各分野真剣に対策を講じているノイズでもあります。
マイクのノイズで人はダメージを受けませんが、大切なあなたのベストテイクがスマホの通知でNGテイクになるのはダメージありますよね。しかしSM4なら心配ありません。
SM4はRFノイズに対して色々な対策を施したマイクです。
例えば、先に紹介した内蔵ポップフィルターは編み込みメッシュを採用していますが、実はマイクのカプセル全体を覆っていてファラデーのかごの原理を利用した防磁仕様になっていたのです。とてもかしこい!
さらに、マグネットポップフィルターも市販のものとは一線を画すメッシュの細かさで、こちらもRFノイズのブロックに貢献しているとの事。
さらにさらに、マイクのボディやその他の部分が金属で出来ていて、マイクそのものが外来ノイズを軽減するシールド効果を持っていたりと、SM4はマイクという音の入り口の段階から徹底的にノイズ対策を行なっているのです。
高額な他社のマイクと比べても、ここまで真剣にRFノイズと向き合っているマイクは無いと言える、唯一無二のストラクチャーです。こいつはすげぇや!
SHUREのSMシリーズはご存知の通り歴代ヒット作が多く、ボーカル用マイクとしてはSM58、SM7BがSM4の兄貴分にあたります。彼らと同じくSM4も伝説的なマイクとなるのか?早速慣れたI/Oと慣れたヘッドホンでチェックしてみます!
…
フロアノイズや指向性などひとしきりテストしたあと、不思議な感じと、思う事ありSM58を繋げてみました。
自分が感じた不思議な感じは、おそらく兄貴分のSM58、SM7BのSHUREのニュアンスをコンデンサーマイクのSM4で色濃く感じた事でした。
兄貴たちはどちらもダイナミックマイク、しかもSM58はハンドヘルドとなるとさすがに共通項が無さすぎる…SMという点同士ではあんまり語れないな、とレビュー執筆前に考えていたのですが、
SM4は失礼ながら本当にSMシリーズだった事が驚きの出来事でした。
ゲインは一般的なコンデンサーマイクのレベルで可もなく不可もなく丁度良く、配信のシーンで定番の組み合わせとなったSM7bにインラインアンプを追加した様な音量感、またはSM7dBと同じくらいです。
写真にあるAMS Neve / 1073OPXのゲインレベルはテストした時のそのままの数字ですので、SM58で丁度良いゲインが+70dBの時、SM4は+57dBとなります。初めから高いゲインを持っているSM4は、もうノイズ面で有利な状態です。
SM4はコンデンサーマイクなのでSM58と比べてより細かなニュアンスを拾いつつも、SHUREのハイエンドコンデンサーマイクのKSMほど気難しくなく、ラフに入力してもそつなくいい感じに拾ってくれます。
音質は実際に試していただくのが一番良いのですが、初回のチェックでいきなりSM58の影を見た私にはSHURE SMシリーズの音としか言い様が無い気がして来ました。
EQやコンプ、エアー感が余計についているわけでも無さそう。派手ではない。地味なマイクかと言われれば、いやー他のマイクがちょっと派手なんじゃない?くらい。高価なマイクにある「頭の後ろや天井の高さがわかるリアルさ」は無くほどほど。だけど防音施工無しの家の用途ならこれくらいが丁度いいかな、マイベストマイクじゃ無いかもしれないけど、家だとこれで良い感じがすごくします。
というのも、ホームレコーディング用途とした場合、あまりにリアルでワイドレンジに音声が収録できる高級マイクを使用したところで、録れる音はエアコンの音、窓や壁の反射音など生活の音がリアルに録れる事が多く、時にはRFノイズも含まれる事があるでしょう。
そのデータはDAWで上手く処理しなければいけない要素となりますが、編集時間やプラグインを使うには勉強が必要ですし、ほどほどに丸まっていて”これで良い感じ”は至極合理的でブレないコンセプトを感じます。
私はボーカルが本業ではないのですが、自分の声の粗い部分がダイレクトモニターにはそのまま返ってこず。これはリテイクを重ねて疲れちゃう事も無く、いいテイクが割と早く録れそうで、少なくとも私の声には合っているなと感じました。
追加のマグネットフィルターはやはり目の細かさが録り音に出ました。大音量や破裂音、舌擦音を受け取る懐がより深くなりますが、物理的に壁を設けている分、どうしても高域のディテールは落ちてしまいますね。
その分ピークは出にくくなりますので、失敗してはいけないストリーミング用途では装着をお勧めします。
歌を録る時はマグネットフィルター無しで録るか、定番のポップフィルターと組み合わせても良いかもしれません。
SM58が現在進行形で若手ミュージシャンから稀代のレジェンドと共にある様に、まずはSM4から始めてみましょう。と、どなたにでもお勧めできる高次元なスタンダードマイクでした。
上を見れば細かなディテールやニュアンスをキャッチするマイクはありますが、それはあなたの粗をも描写する諸刃の剣。しっかりやるなら入れ物(部屋)のチューニングから始めないといけないので敷居が高くなります。
SM4で技術を鍛えて、「録り音のここがこう録れたらなぁ」と感じる様になった時、あなたの歌や声はどんなマイクの性能も活かせる基礎力を身につけているでしょう。
ほんまかいな、と思うでしょ?大丈夫です。SHUREのSMの名を冠したマイクたちは、それを実際にやってきたのですから。