パラダイス

瀬川商店 第35回:初めてのKontakt②

2025.06.20

さて、先週の続き。今週は主に素材の準備の話。

まずは話が簡単なサウンドデザイン系のサンプリングライブラリーの作り方。僕の場合アクション映画が割とあるので、音響効果さんの仕事と劇伴の役割の中間のサウンドも担当する事が多いんです。つまり電子系の楽器を使ったサウンドデザインですね。モジュラーシンセは勿論のこと、オーガニック系(というか2回同じ事ができない系かw)のシンセ、SOMA社のLYRA-8やENNER、TERRA、この辺の楽器は素材のレコーディングからスタートします。10分〜20分(ドローン系は長くなりがち)くらいただひたすら演奏した素材をレコーディングしていきます。


SOMA Lyra-8


SOMA Enner


SOMA Terra


そしてWAVファイルとして書き出して一旦ストックしておきます。この時はまだファイル名にピッチ名は必ずつけなくてもいいんだけど、どういう音かは割と分かりやすく書き込むかなあ。サウンドデザイン系のサンプリングって倍音の含み具合や、ピッチのウネウネ感次第で、基音がどこになるか決まる場合もあるんだけど(ハイパスフィルターもガッツリかけるしね)、ファイル名みてどんな音か分からないゴミが増えていくばっかりなんで、どうせそういうファイルは自分しか見ないしね、まあなんじゃこのファイル名は?って名前付いてること多いです(笑)。

次にピッチがハッキリしている素材の場合。カリンバやトイピアノ、それからモジュラーシンセで作った音(だいたいモノフォニックだし)をサンプリングして後から鍵盤で弾いてポリフォニックで演奏したいな〜みたいな時。こういう時は割と計画性もってサンプリングしていかないと後から面倒な事になります。

異論があるのは理解しつつも自分の経験上、サンプリングライブラリーを作る場合「オリジナルのピッチから下げる方向に広げることはあるけど、上げることはない」これはとりあえず覚えて置いてください。つまり、サンプルのオリジナルピッチがMIDIノートナンバーのC4のピッチの場合、C4からA3まで下方に拡張することはあるけど、D4とか上方向に拡張することはないんです。理由は上に拡張すると音がケロっちゃって不自然に感じるんで僕は滅多にしません。もしあるとすればシンセの波形に近い素材であればそれほどケロケロした感じに聞こえない場合もありますが、楽器音(つまり倍音列がそれほどシンプルではない素材)は2度上方向に拡張するとすぐにケロケロしてきます。イメージとしては下のスナップショットのようにするという意味です。

素材の準備のためのテンプレートも紹介します。これは主にモジュラーシンセで作ったピッチ感ありのモノフォニック素材を取り込む時に使います。DAWからMIDI情報をモジュラーシンセに送り発音させてDAW側でレコーディングするという流れですね。これはテンプレートなので、C3 D#3 F#3 A3というピッチの繰り替えになっていますが(スナップショット2)、モジュラーシンセで作った音のスイートスポットがE3なのであればこのテンプレートのMIDIデータを半音上に上げて、C#3 E3 G3 A#3を繰り返していくようにします。

DAW全体で見るとこんな感じですね。サンプリングした各ピッチの長さに関しては実際のノートデューレーションを調整するもよし、面倒だったらDAWのテンポを遅くしてレコーディングするもよし、とにかく前の音の余韻が、次の音がトリガーされた時に確実に消えていれば問題ないです。ラウンドロビン(RR)はどうすんの?という声も聞こえてきますが、サンプリングする素材のバラツキ次第ですね。RRした方が自然に聞こえると思えば、C3 C3 C3 D#3 D#3 D#3 F#3 F#3 F#3〜という感じで最低でも3発ずつ録音していった方がいいです。そしてKontaktでマッピングする時にその数だけグループを作ってRRするようにプログラミングします。

このMIDIトラックをモジュラーシンセに送ってオーディオとしてレコーディングしてチョップしてライブラリにするってのが僕の場合は一番多いですね。

ウクレレ等は弾くだけでもムラが出るのでRRした方がいいし、意外とトイピアノは同じ強さで弾く(簡単じゃないけどw)ならRR用に素材用意しても実際あまり意味がない場合もあります。まあケースバイケースですかね。

もし、もっとサウンドデザインよりな作業をしてみたいと思ったら、フィールドレコーダーは手元にあった方がいいです。僕は10年以上SONYのPCM-D50を使っています。実は後継機種のD10も持っているんですけどね、微妙〜に音が違っていて音質的にはD10の方が良いんだろうけど、慣れなのかなあ、、、それから個人的にはiPhoneにマイクをつけて録音するタイプのアプリでお勧めできるものがありません。ハンディーレコーダーはZoomからも良い製品がたくさん出ているし、ロックオンカンパニーの中古もちょいちょいチェックしてみるのもいいですよ。

<Rock oNハンディーレコーダーページ>

<Rock oN中古商品一覧>

フィールドレコーディングやサンプリング用の生楽器のレコーディングの時はサンプルレートは96khzか192khzでレコーディングしておきます。サンプリングの楽しさのひとつに、オリジナルピッチから2オクターブ、3オクターブ下げるとエイリアスのノイズ(これ説明すると長くなるんで各自調べて)やオリジナルピッチでは可聴範囲外だった倍音やノイズが聞こえてきて、別の素材として使える可能性があるんです、、、ない時もあるんですが、、、というかないケースの方が多いんですがw まあ未知のクリエイティブな分野は効率追求したらダメです。そういう通常の可聴領域外の音を使いたい時にハイパスフィルターでガッツリ下のレンジをカットして書き出して新たに別素材として使ったりするわけですね。

来週はサンプリング素材をKontaktにインポートしてライブラリーとして仕上げていく過程を解説します。その作業に関してはロマンが介入する余地がないのでひたすら高効率を目指します!

瀬川英史(瀬川商店)
劇伴の作曲家やってます。Netflix「シティーハンター」アニメ「烏は主を選ばない」等。シンセは危険物取扱者の甲種レベルの知識あり(多分)。
記事内に掲載されている価格は 2025年6月20日 時点での価格となります
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