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瀬川商店第22回:求ム、アシスタント!

2025.02.20

突然のようですが、この場をお借りしてアシスタントを募集したいと思います。といっても、「手伝ってくれそうな人いませんか?」と声をかけるだけだとちょっと味気ないし、どうせなら僕が感じている“アシスタントという立場”のメリット・デメリットも含めてお伝えできればと思います。せっかくこのコラムを読んでくださっている方々に向けて書くわけなので。
まず、具体的な話からいきますね。僕が今求めているアシスタント像としては、

1)Avid社のSibeliusやSteinberg社のDoricoといった譜面ソフトが使える。
2)CubaseやNuendoかDAWを既に使っている。
3)将来的に劇伴作曲家やオーケストレーターを目指している人がベストですが、もちろんそれ以外でも構いません。
4)都内在住だとスタジオでのレコーディングを一緒に経験しやすいので望ましいんですが、絶対ではないです。ただ「地方から通ってもやれるでしょ!」と意気込めるほどのフットワークがあるかどうかは、ちょっと考えてほしいところ。

5)学歴に関しては、大学生OK。でも現役高校生はナシかなと。


こう書くと「わりと厳しそう?」と思うかもしれませんが、あくまで“目安”ですよ。なぜなら、「譜面ソフト持ってます!」という人でも、移調譜面が読めなかったり、各楽器の音域がイマイチ頭に入ってなかったりすると、実際にお願いできる作業が激減します。モードの知識やアッパーストラクチャーの理解度ひとつでお願いできること・できないことが変わってくるので、最終的には個人のスキル次第でどこまでお願いできるかが変わってきます。


ちなみに、僕へのコンタクトは各自考えてください。どこから情報を見つけて、どうアプローチするかも、実は大事なスキルのひとつ。ただし、「ロックオンカンパニーに電話して僕の連絡先を聞き出す」という裏ワザ(?)はNGでお願いします(笑)。自力で探し出す過程には、けっこう大切な“現場力”が試されると思ってください。


さて、そんな登竜門としてのアシスタントのポジションですが、実は「そもそもアシスタント経験のない職業作曲家」はかなり多いんです。僕自身もそう。ただ一方で、アシスタントとして得られるメリットって大きいと思います。プロの現場を間近で経験できるわけですから、譜面の作り込みのコツや、打ち合わせでのやりとり、デモ音源のモックアップのクオリティなど、学校やネット情報じゃ分からないリアルな空気感を知ることができる。YouTubeで劇伴系の情報アップしている方いろいろいらっしゃますが、だいたい「無理っしょ、そのスピードじゃ」という情報が実際多いです、、、


アシスタントになってみる事はそれなりに価値があると思うし、もしまだ自分の実力が足りなければ、一度立ち止まって勉強し直すチャンスにもなります。業界では「最初の数本で躓くと、その後の仕事が来なくなる」という現実もありますから、段階を踏んで場数を経験する入り口としてはアシスタントになるのは悪くないんじゃないと思います。特に最近は作曲家がすごい増えたし、即戦力になるアドバンテージは多い方が良いですからね。


デメリット的な話でいうと、最初に飛び込んだ現場のやり方が良くも悪くも染み付いてしまうこと。つまり、「こういうものだ」と思い込んでしまう危険があるわけです。周りからすると、「そこから先、伸び悩んでるなぁ…」という人も実際に見かけます。それともう一点、「アシスタント癖」がついてしまう人がいる。あまりに長期でアシスタントを続けると、自分で仕事を取っていく感覚を失ってしまいかねないんですよね。僕の感覚としては、アシスタント期間は長くても2年くらいが良いんじゃないかなと思います。


ここでちょっと実例を挙げると、今とても活躍している作曲家の伊藤翼くんが、昔ほんの数ヶ月だけ僕のアシスタントをやっていた時期がありました。彼は音大でチューバを専攻していたけれど、すでに作曲家としての土台はできていて、アレンジを任せられるほどでした。しかも自分がやりたい「劇伴」のイメージを最初から明確に持っていて、営業力もあった。正直、僕としては「もうちょっとアシスタントしててくれたら助かるのにな」と思ったのが本音ですけど(笑)、才能のある人が長く僕の下にいるのはもったいないので、結局は自分で道を切り開くのが良いだろうと後押ししました。
だからアシスタント期間は長さがすべてじゃない、むしろ短いほうがいい場合もあると思うんです。


僕自身は作曲家のアシスタント経験はないのですが、シンセサイザーのマニピュレーター事務所にローディーとして入っていたのが、いわば“アシスタント的”な立場だったかもしれません。まだレコーディングで朝までシンセをスタジオでダビングするのが当たり前の時代に、機材を運んだりセッティングしつつ、ただ同然でトップアレンジャーの仕事ぶりやストリングス・ブラスの生録を生で見られた。あれは今から思えばすごい学びでしたね。以前にロックオンカンパニーのシンセサイザーのワークショップをした時のYouTubeがあります。この中で僕が最初にどうやってシンセを覚えたのか話していますのでチェックしてください。今でも目を閉じてでもProphet5のエディットできますから、僕の入り口は良かったんだと思います。



繰り返しになりますが、作曲家によって働き方やスタイルは違うので、アシスタントを経験するのは一概に「したほうがいい」「しないほうがいい」とは言い切れません。大事なのは常に「もし自分ならこうするのに」という気持ちを忘れないことだと感じています(それを口に出す出さないは考えた方がいいと思うけどw)。そうじゃないと、結局アシスト先の作曲家の“劣化コピー”にしかならないわけですしね。

そんなわけで、もし「やってみたい!」という方がいれば、何らかの方法で僕にコンタクトしてみてください。要件をぜんぶ満たしていなくても大丈夫。そこはスキルや経験値を見つつ、どんな作業をお願いできるかを一緒に考えていこうと思っています。僕自身もアシスタントさんと組むことで、さらに新しい発見があるんじゃないかと期待しています。


…という感じで、今回はアシスタント募集に絡めて、僕なりの「アシスタント論」をつらつら書いてみました。どんなスタイルでキャリアを積むにしても、一度きりの人生なので、やりたいことがあるならいろいろ挑戦してみるのがいいと思います。

瀬川英史(瀬川商店)
劇伴の作曲家やってます。Netflix「シティーハンター」アニメ「烏は主を選ばない」等。シンセは危険物取扱者の甲種レベルの知識あり(多分)。
記事内に掲載されている価格は 2025年2月20日 時点での価格となります
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