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TAOCスタジオワークス x PMCコラボレーション製品インタビュー 〜MSTP-PMC8S誕生秘話〜

2025.03.27

愛知県を拠点に鋳鉄製オーディオアクセサリーを製造するTAOCが、イギリスのスピーカーブランドPMCの専用スタンドを製作。

今回は両社が互いに惹かれ合ったポイントや、PMC製品の中でもPMC8-2というミッドフィールドスピーカーにフォーカスした理由などを、アイシン高丘エンジニアリング株式会社の南 祐輔氏、オタリテック株式会社の兼本 吉彬氏をお招きし、Rock oN Shibuyaのリファレンスルームで実機を前にお話を伺いました。

text by Vツイン多田(Rock oN Company)

PMC / PMC8-2 × TAOC STUDIO WORKS / MSTP-PMC8S

ROC多田(以下、R):本日はどうぞ宜しくお願いします。早速ですが、それぞれのブランドについてあらためてご紹介をお願いします。

南:私たちTAOCは自動車部品の鋳造部品を製造している会社の音響部門として、41年前に音が好きな有志によって設立されたというのが始まりになります。インシュレーターやオーディオラックなどの自社製品を開発していまして、さらにプロオーディオ専用シリーズTAOCスタジオワークスでは、制振性を備えたスピーカースタンドに集中して開発をしています。

アイシン高丘エンジニアリング 南 祐輔氏

R:TAOCさんにはピュアオーディオの分野がメインのイメージがあるのですが、TAOC STUDIO WORKS製品群でプロオーディオの分野に参入しようとされたきっかけ、開発コンセプトなどお伺いできますか?

南:2018年ごろにテイチクエンタテイメントのTEMASスタジオ様でTAOC製品を使いたい、というご要望を受けたのがきっかけです。それまでも、実は国内音響メーカーの研究開発室などでご使用いただいていたのですが、スタジオエンジニアさんの意見もまた、非常に学べる事が多いと感じました。


その時はマシンルームに大型ラックを導入いただいたのですが、人々が感動するサウンドを創るエンジニアさんの妥協のない姿勢に、私たちも自分たちのノウハウや研究結果を持ち込んで、ぜひ一緒にものづくりがしたいと考えるようになりました。

R:はじめはスピーカースタンドではなかったのですね。

南:はい。ですがこの特注案件がもっとプロオーディオの分野で使用されている製品を研究したいというきっかけになりました。その後アーティスト、エンジニア、スタジオの皆様からアドバイスを頂き、2023年4月にスピーカースタンド6種、インシュレーター1種でTAOC STUDIO WORKSという部門をスタートしました。開発や製品のコンセプトとしては、皆さんと一緒に研究したい、という思いが私たちのベースになっています。

R:PMCはどういったスピーカーブランドでしょうか?

兼本:PMCは1991年創業のイギリスのメーカーで、イギリス、アメリカはもちろん、日本でもステレオからDolby Atmos仕様の大規模スタジオまで多くのユーザー様にお使いいただいております。6インチ2ウェイのニアフィールド機種から最大音圧132dBのラージスピーカーまで豊富なラインナップを取り揃えているメーカーです。弊社オタリテックは音響機器の輸入代理店業務を行なっておりますが、2018年からPMCの国内輸入代理店を開始しております。

オタリテック株式会社 兼本 吉彬氏

R:PMCのPMCシリーズについて、どんな立ち位置のスピーカーですか?

兼本:ニアフィールドからミッドフィールドを網羅するシリーズになります。現行アクティブスピーカーの最新機種でもあり、今回紹介するPMC8-2(ピーエムシーエイトツー)は、8インチウーファーを2機搭載するクラス最大のモデルになります。

R:PMCはセットアップが外ウーファー(ウーファーが外側に来るよう設置する)なんですよね。これは他社を見ても珍しいオリエンテーションだと思うんですが、なぜなのでしょう?

兼本:普通のスタジオの常識で言えば、ウーファーユニットが内側に来る方が音がビシッと決まると思うのですが、PMCはツィーターが内側に来ることをガイドラインに置いていて、メーカーのオススメセッティングになります。オススメですが、海外の事例を見るとPMCを内ウーファーで使用されているスタジオもありますね。

R:メーカーの指針という事ですが、この置き方で得られるメリットはどういったものでしょうか?

兼本:スタートアップはまず外ウーファーでお試し下さい、というガイドラインに加えて、PMCはユニット本体を僅かに外振りで設置して下さい、というガイドラインもあります。具体的な数値もあり、リスニングポイントの50cm後ろにスピーカーの音響軸(LRが交差するポイント)を設定する、というものです。結果的にツイーターの音響軸は外ウーファーでありながら収まりの良い所に位置しますし、そこで得られる利点として、この置き方のPMCはステレオイメージが明らかに良いんです。

R:PMC8-2専用スタンドをTAOCさんが作った、逆を言えばPMCが専用スタンドをTAOCで作った、という経緯はどういったものになるのでしょう?

南:最初はRock oNさんから都内の某スタジオにPMC8-2XBD(PMC8-2とPMC8-2 SUBを組み合わせたベースエクステンションモデル)の納入の際に、特注スタンドを作りませんか?というお誘いを頂いたのがきっかけです。OEMで近しいサイズを製造していた事もあり、そこをベースにしつつ新しい技術を投入できるという事で、試作含め制作させて頂きました。

R:特注品からのスタートですが、既存製品との違いはありますか?

南:スタンド本体の性能にまずこだわり、寸法もミリ単位で追い込んでいきました。特注ならではの仕様として、さらなる音質向上を目的にした大型の鋳鉄製インシュレーターをスタンド脚部に採用しました。データを用いて、PMC8-2XBDが素晴らしい環境で鳴るサポートをさせていただきました。


クライアント様、オタリテックさん、ロックオンさんと一緒に最も良い音を現場で創っていきました。今でもクライアント様をはじめ皆さんの真剣な表情を鮮明に覚えています。

兼本:スパイク受けやインシュレーターも、TAOCさんの豊富な選択肢から選定できるのが良いですね

南:インシュレーターや脚部をもチューニングするという概念は、珍しいかもしれないのですが、より良いサウンドを目指すTAOCスタジオワークスにとっては積極的に取り入れていく価値のあるものだと考えています。スタジオエンジニアさんとも一緒にトライをして盛り上がる事が多いですね。

上司や同僚と話すのですが、音に関わる様々なブランドのOEMをやらせていただいていることで、開発エンジニアと意見を交換したり、ありがたく多くの試作を試していただいてきた、これまでの40年以上の積み重ねだと思っています。


私たちだけでは現在のようなノウハウは持てていません。今もスタジオワークス製品を通して、スタジオエンジニアさんやクリエイターの皆様に学ばせていただいています。

今回リファレンススタジオに持ち込まれたスパイク受けは、同社のPTS-A

R:PMCスピーカー全般に元々お持ちだったサウンドのイメージ、また専用スピーカースタンドと組み合わせた時の音質のインプレッションはありますか?

南:そこは是非多田さんから

R:私ですか?個人的には2024年のNAMM SHOWの現地取材で訪れたPMCブースは未だに記憶に残っていますね。9.1.6のDolby Atmosのシステムだったんですが、初日から最終日までずっと視聴ルームが満席で。外から漏れる音楽を聴いていると、殆どがヒップホップやUSポップスの新譜でした。これはRock oNでスピーカー視聴をご利用頂くお客様の傾向も同じで、PMCでその辺りのジャンルを聞くととても良いんです。

Rock oNとしては、PMCの中でもお手頃な価格のresult6が長年トップセールスだった所から徐々にPMC6/6-2、またはPMC8/8-2などのPMCシリーズにシフトしている感覚があります。result6も現行品ですが、PMCシリーズとして世代が変わったことは市場から見ても大きなポイントなのでしょうか?

兼本:PMCシリーズとその他のPMCスピーカーの特徴として、ATL(advanced transmission line)という方式を採用しています。これは低域のスピードに大きく作用する機構で、PMCは元々低域を上手く捌ける能力を持っていたんです。今のヒップホップやUSポップスでは楽曲の中で低域に求められる要素、楽曲の中で低域の比重がどんどん大きくなっていますよね。その中でPMCが上手く再生出来ている事は、間違いなく市場のニーズと合致し始めていると思います。

R:周波数特性だけで言えばサブウーファーの導入で今やどのブランドでも実現できる領域ですが、トランジェント特性に代表される時間軸の特性は、いま挙がった音楽ジャンルで特に重視されるポイントですよね。Rock oNのお客様も低域が”出てる/出てない”をジャッジするだけでなく、速い/遅いをジャッジされている方が増えてきました。TAOCのスタンドは音が物凄くタイトになりますよね。他社のスタンドは敢えて”響き”を残す設計だったりしますが、その点PMCの設計理念に通じる物があるんじゃないでしょうか?

南:TAOCのスピーカースタンドのコンセプトには低重心である事と、スタンド自身が振動を減衰する能力を持っている事という2つの要素があります。重心が高いと上から(スピーカーから)の振動に対して揺れやすくなってしまい、また振動減衰能力が低いとスタンドが共振してしまい、結果的にキックやベースを足してしまう。本来スピーカーから出ていない余分な音が出てしまうんです。このあたりを抑え込み、スタンドを追加してプラスの質量なのにサウンドはプラスマイナスゼロになるのがTAOCらしいサウンドと言えます。

兼本:なぜPMCのスタンドにTAOCを採用したか?という先ほどの問いに対しては、まさにTAOCさんのコンセプトがPMCと合致していたからなんです。PMCとしても余分な振動は出したくないですし、スピーカーの良さを更に引き出してくれるスタンドだと思います。

R:PMC8-2は勿論、他のPMCスピーカーでもTAOCのコンセプトがバッチリという事ですね!

南:はい、既にPMC6やPMC6-2でも特注の実績があります。

R:TAOCさんにお尋ねしますが、今回の対談でも度々出てくる特注オーダーに関して、顧客が依頼するとなったらどういったプロセスになりますか?

南:通常ラインナップのMSTPを作った時点で、天板と支柱のベストな条件は突き詰められています。ここに高さと幅でバリエーションを持たせてゆく形になります。納期は大体1ヶ月見ていただければ。エンジニア様や会社様のご要望があれば納品設置にも喜んでお伺い致します。皆さんがどういった音のポイントを聞いているのか、研究させてください

R:最後に、各社製品をどういった方々にお勧めしますか?

兼本:現代的な音作りの方にお勧めしたいです。低域のスピード感に加えて、PMCには歪みの少なさ、クリアさという特徴もあります。これは音像の見やすさ、言い換えれば前後関係の見やすさにも影響があるポイントです。プラグイン含め録音機材の進化で歪みの少ないワークフローで進んだ現代の楽曲は、やはり低歪みな作品が多いです。これらを正確にモニターしようとする時、スピーカーが歪んでいては細かい情報が見えにくい。そこをしっかり追い込んで作り込む為にPMCを選ぶというのは意義があるかなと思います。

南:良い楽器は20年30年と長く使えますが、TAOC製品も20年30年と安心してお使い頂ける仕様となっております。TAOCスタジオワークスは、自分の手でトライしたいというTAOCのエンジニアの思いそのままに活動しています。実際に使っていただけるかたの生の声を聞き、自分たちで図面を描き、協力工場さんの力も借りて生産したものを、自分たちの倉庫で検品したものを梱包して出荷させていただいています。

オタリテックさんやロックオンさんの協力をいただき、納入にも行かせていただく事で、使用環境やサウンドエンジニアの皆様のこだわりも聞かせていただいています。それを蓄積して、次のものづくりに活かしています。

世界のドルビーアトモスで高い注目を集めるPMCの魅力を余すことなく伝えるオタリテックさん、いつも一緒にものづくりをしていただいているロックオンさんとともに、人々を感動する音を創るスタジオエンジニアやクリエイターの皆様のお役に立てられましたら幸いです。

左からRock oN Company Shibuya のVツイン多田、アイシン高丘エンジニアリング 南 祐輔氏、オタリテック株式会社 兼本 吉彬氏

どちらのブランドも個人的に大好きな製品が多く、スピーカーセッティングにも活かせる

繋がる為になる製品のお話が満載のインタビューでした!

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記事内に掲載されている価格は 2025年3月27日 時点での価格となります
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