みなさんこんにちは、ACID渋谷です。SYNTH HEAVENパラダイスの記事としてはご無沙汰になってしまいましたが、現在「渋澤楽器」という企画で、私たちが世界中から集めて販売しているプロダクトに焦点を当てているので、ぜひそちらもチェクして見てください。そんな中で今回取り上げるのは、テクノの都ベルギーのヘントから突如現れた MORPHOR ECHON 6 !Analogue Polyphonic Multi-Timbral BBD Synthesizerと銘打たれ、只者では無さそうな雰囲気です。SUPERBOOTH26で既に情報をチェックされていた方もいらっしゃるかも知れませんが、この度ついに発売されました!そしてRock oNに日本最速で到着しました。今回は序章としてMOPHOR ECHON 6がどんな構造のシンセなのかを紐解いて見たいと思います。

まずこの本体画像を見た時に、左からEXCITER、QUAD LFO、BBD RESONATOR、そしてOUTPUTと4つに機能がまとめられている事が分かりますね。シンセ好きの方なら、OUTPUTはその名の通りきっと出力ボリューム関連、そして真ん中のQUAD LFOはモジュレーションソース関連だろうと察しがつくと思います。となると左のEXCITERと右のBBD RESONATORというのがECHON 6の構造を読み解く重要なセクションのようですね。
シンセ本体にもBBD RESONATORと書いてあるし、このシンセの名前もAnalogue Polyphonic Multi-Timbral BBD Synthesizerです。「アナログでポリフォニックでマルチティンバーなシンセという事は分かるけど、BBDって何だ?」と思ったそこのあなたは鋭い!ここに秘密があるんです。ではBBDについて簡単にご説明します!

まずBBDとはBucket Brigade Deviceの略 = バケツリレー素子の事です。アナログ信号を、長いバケツリレーのように無数のコンデンサーとスイッチの列に通すことで、信号に徐々に遅延(ディレイ)を生み出す仕組みです。信号の受け渡しはクロックで制御され、クロックが速く動けば音はすばやく移動し、ディレイタイムは短くなります。クロックが遅くなれば、音がチェーンを通過するのに時間がかかり、ディレイタイムは長くなります。今でもBBDを使ったアナログディレイはとても身近な存在で人気があり、ギター用のペダルを始め多くのエフェクターが存在しています。Electro-Harmonix DELUXE Memory ManやBOSS DM-2などが特に有名ですね。ちなみにデジタルディレイの名機 KORG SDD-3000はデジタルでBBDを模したサウンドを作り上げ一世を風靡しましたね。BBDディレイの特徴といえばその劣化した音質…..と、BBDディレイを深掘りしすぎるとECHON 6の解説にならないのでここまでにして、ここでECHON 6の秘密を解き明かす鍵としてお伝えしたいのは 「ECHON 6はBBDをディレイエフェクトとしてではなく、音源として使用している」ということなんです。

BBDでアナログ信号にディレイを発生させることは上記でお伝えした通りですが、ディレイ信号の一部を入力に戻すフィードバックループを作ると、ディレイのタイムとクロックの速さに基づいて特定の周波数の増幅が始まり、それがレゾナンスまで達すると、まるで固有のピッチを持つ物理的な振動体(レゾネーター)のように振る舞い始めます。出ました、レゾネーター。これがECHON 6のサウンドを生み出す肝になります。

シンセサイザーではLPフィルターのカットオフ周波数を下げてレゾナンスを上げると、自己発振が始まり綺麗なサイン波が出ますよね。イメージはあれに少し近いです。ですがフィルターの場合はそのものが音源になって鳴り続け、カットオフ周波数を変えることでピッチが追従し、新たなオシレーターのような振る舞いになりますが、ECHON 6のBBDの使い方はBBDを音源そのものではなく、打てば響く「共鳴体」として、例えばバイオリンのボディや太鼓のようにそこに加えられるアクション(入力される信号)によって様々な振る舞いをさせるというものなんです。だんだん見えてきましたね!

そしてその振る舞いはBBDに入力された音の倍音構成によって大きく変わります。入力音はBBDを振動させるもの、つまりそれがエキサイター(EXCITER)なんです。 ECHON 6はこのエキサイターとしての豊富な倍音を持つオシレーターと、それに共鳴し様々な音を出すBBDレゾネーターによって構成される、非常に物理的な音作りをするシンセなんです!ここで最初のECHON 6の写真に戻ると、左のEXCITERはBBDを共鳴させるためのオシレータセクションであり、右のBBD RESONATORはEXCITERからの信号を受けて共鳴の度合いを調整するセクションであることがわかりました。そして真ん中のQUAD LFOセクションはモジュレーションマトリクスで、EXCITERとBBD RESONATORのパラメーターを縦横無尽に変調するためのものだということも分かります。

さらによく見るとBBD RESONATORセクションの左上にはINPUT FILTERというツマミがあります。EXCITERからの信号がここを通ってBBD RESONATORセクションに入ってくるんだろうなと予想できますが、FILTERというのがミソなのです!このINPUT FILTERとはExciterの出力がBBDに入る前に直接通過する12dB/octのローパスフィルターです。つまりこのツマミが決めているのは、BBDを共鳴させる信号にどれだけの倍音成分を含ませるかです。前述の通り、レゾネーターとなったBBDの振る舞いはそこに入力される音の倍音構成によって変わります。だからFILTERがBBDの前段についているんですね。

カットオフを開く→ 明るい信号がBBDに入り、レゾネーターがより鋭く、よりエネルギッシュに反応する
カットオフを絞る→ 暗い信号がBBDに入り、より柔らかく丸みのあるレゾナンスになる
さぁ、ここまででECHON 6がどんな構造でどんなシグナルパスを持っているかが大体掴めてきたかと思います。そしてこの時点で、エキサイターとレゾネーターがあるってことは、物理モデリングなんじゃないの?なんて事まで考えているシンセ好きな方もいらっしゃるでしょう。はい、確かにECHON 6はエキサイターで「叩く、擦る、吹く」のようなトランジェントを持ったシグナルを作り出すことができるので、物体のような振る舞いをするレゾネーターに対してそれらを送り込めば、擦弦楽器や管楽器のような質感を簡単に作り出す事ができます。
では最後に何がECHON 6とその他の物理モデリングシンセを分けるのでしょうか?私としてはこの4つを挙げたいと思います。
エキサイターとレゾネーターで音を作る仕組みは、まさにKarplus-Strongというギターやベースなどの撥弦楽器等を再現するアルゴリズムと基本的に同じです。これ自体は珍しいものではなく、Intellijel PlonkやAuturia MiniFreakなど搭載しているシンセは多く存在しています。Erica Synths STEAMPIPEのような専用機もあります。思えばMutable Instrumentsの一連の製品で一気にメジャーになったような気がしますね。それらとECHON 6が決定的に違うのはECHON 6がアナログであるということです。エキサイターはVCO、そしてレゾネーターはBBDチップにすることで物理モデリングでは生まれないアナログならではの不確実さを獲得しており、より有機的なサウンドになることが特徴です。ノイズもアナログのS&H回路で生成します。

物理モデリング/モーダルシンセシスは、基本的には実在する物体の共鳴を捉えるため、それぞれの共鳴を個別のバンドパスフィルターとしてモデル化し、たとえばワイングラスなら440Hz・1.2kHzといった、その物体固有のモード周波数を再現するという、特定の実在物を精密に数学的に模すアプローチです。もちろんパラメーターを極端に設定すれば実在しない物体をシミュレーションすることは出来ます。
それに対してECHON 6のBBDレゾネーターは、そもそも何かの楽器を目標にしていません。BBDのクロックレートやフィードバックフィルターやINVERT(極性反転)など、純粋に電子回路的なパラメーターの組み合わせから共鳴が勝手に生まれてきます。つまり「バイオリンの弦を目指して精密に計算する」のではなく、「回路が自然に持つ癖や振る舞いを、そのまま楽器にしている」という違いがあります。
物理モデリングのエキサイター(はじく・こする・吹く)は基本的にはトランジェント重視のトリガーの役割で、全体のピッチはレゾネーター側が担っている事が多いですが、ECHON 6のExciterはそれ単体で固有のピッチと様々な波形を持ったシンセサイザーになっています。つまりECHON 6は個別のピッチを持つ2つの音源を1ボイスの中に内包していることになります。あえて二つのピッチをずらせば、うなりやモアレ状の干渉、非調和的な質感まで作り込む事ができるので、これは擦弦・管楽器のシミュレーションではあまり出てこないサウンドを生み出します。エキサイターのVCOのサウンドも非常に粒だちがよくパワフルで、シンセベース等でもガンガンに使えます。また6ボイスを1音ずつ全て違う設定にして6つのモノシンセとして使うこともできます。この辺りはOberheim Xpanderにも似てますね。

BBDはアナログ回路なので、通常聴き取れないレベルのごく微小な変動が自然に含まれているため、ECHON 6のようなハイゲインのフィードバックループ回路があればそれだけでシステムが動き出しエキサイターからの信号が無くても、様々な音色を生成することができます。本当にFEEDBACKのノブを回すだけで複雑なサウンドが鳴ります。実在の楽器(やその精密なモデル)は、当然何もしなければ鳴りませんが、ECHON 6は回路のノイズだけからでも音が生まれるという、物理モデリングにはない現象をあえて機能として搭載してます。