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瀬川商店 第55回:Spottingとその手順①

2026.02.20

いや〜前回から随分間が空いてしまいました。瀬川商店もう閉店?と周りに言われてますが、まだ閉店していませんよ〜

昨年末から来年〜再来年まで映画の仕事がず〜っと続くんですが、映画と言えばスポッティング。一般のリスナーには馴染みのない用語だと思いますし、劇伴の仕事してますという作曲家でも映画やドキュメンタリーの仕事をしなければこのスポッティング、とかスポッティング・セッションという作業はあまり馴染みがないかと思います。

日本の場合、海外(と言っても僕が実情を知っているのはせいぜいアメリカとイギリスくらいですが)と違って民放のドラマやテレビアニメ(それと一部の劇場公開のアニメ)の劇伴は事前に40曲とか60曲(曲数はコンテンツの内容や演出家がどれだけ細部にこだわるかによる)を録音して、それを「選曲」という仕事をしている方が切り張りしてダビング作業(効果音と整音したダイアログと音楽をミックスする)のために準備します。

この手法にハッキリした名称はないのですが、「ライブラリー形式で納品します」で通じるのでそんな呼び方でいいのかな(笑)?まあ確かに特定の作品のためにエクスクルーシブなライブラリー制作してるようなものだしね。でもこれは日本独特な文化なので、アメリカ人の同業者に例えば、

We deliver it in library form.

と言ってもまず伝わりません。何故ならアメリカは作曲家(または作曲家チーム)が個人でライブラリーのレーベルを持ってる場合も少なくないので、こういう言い方すると「はあ〜自分のライブラリーから適当に見繕って納品してるんだなコイツは」と思われる可能性高いのでこういう説明は避けた方がいいです(経験者は語る💦)。

どうしても英語で説明しなければいけない場合は、

It’s not weekly composer-driven. We drop a custom cue library and they build from there.

It’s not really composer-driven week to week — we build a custom cue library upfront and the editor cuts it in.

くらい説明しないと結局伝わらないので、英語に自信なければあまりこの話題に触れない方が得策ですね。

それと”毎週”放送されるドラマや、映画の映像に合わせて書くことを「フィルムスコアリングで書きます」と言ってる業界の方がいますが英語だと全く通じません。僕もその言い方おかしいですよと抵抗してきましたが、最近はもう諦めました。また1つ海外で通じない新しい和製英語の誕生ですね(笑)

さて映画の場合、多くは映像に合わせて曲を書き進めるのが一般的です。そしてどのシーンにどんな音楽をどれくらいの長さで配置していくかを決めるのがスポッティング・セッションです。スポッティングのやり方にはいくつかパターンはあるんですが、だいたい以下のパターンですかね。


① 監督と作曲家と選曲さんがミーティングしてスポッティングしていく

② 選曲さんと作曲家でスポッティングしていく

③ 選曲さんがスポッティングして、作曲家はその方針をフォローしながら書く

④ 作曲家がスポッティングして、選曲さんにそれをシェアしながら進める


①は監督の頭の中に、音楽のスタイルと編集のテンポ感が既にあって、それを選曲さんと作曲家が聞き取り調査するスタイルですね。

②とそして③のパターンが一般的には多いのかな?それと映画の経験が少ない作曲家の場合は有効な進め方です。2つの展開が同時進行するようなストーリーの場合等で、友人が実は裏切りものだったりとかそういう展開があると、主人公と友人が一緒にいるところから音楽をスタートして、2人が別れてから音楽をダークに振るのか振らないのか。そのシーンがまだ前半の30分だからまだネタバレになるのは早いから、この段階ではあえてダークにしないようにしようか?とかそういうやり取りですね。意外とこのどこから音楽をスタートさせるかは演出的に大事なんです。そこは経験豊富な方のアドバイスに耳を傾けた方がいいです。

④は何度も仕事している監督と選曲さんとの信頼関係がある場合ですね。現在制作中の映画「サカモトデイズ」もこのやり方で僕がスポッティング〜作曲したあと選曲の佐藤啓さんに委ねて選曲さんのセンスで微調整してもらうやり方ですね。

なおその微調整は選曲さんと監督との間で進めてもらう事もよくあります。まあやっぱり作曲家も人の子、手間がかかった曲をバッサバサハサミを入れて欲しくはないものですが、監督のイメージ的にそれが必要ならばハサミ入れるとか、新たに書き直す必要があります。そういう時は僕がいない場で俯瞰から全体を見てもらった方が結果的にいい場合も少なくないです。


さて、やっと本題のスポッティングの手順ですが、これはあくまで僕のスタイルで他の作曲家さんがどうやってるのかは人それぞれだと思いますので、そこはご理解頂きたい。

まず、そのスポッティングの途中経過を選曲さんと共有しながら進める場合。これはスポッティングもProToolsで行う必要があります。ゲーム業界とかNHKの選曲のスタッフさんだとNuendo使ってる人も多いんですが、映画の仕事に限定すると共通言語はやっぱりProToolsになりますね。

僕個人ではProToolsでやる場合とNuendoでやる場合がありますが、基本プロセスは一緒で映像見ながらとりあずオーディオトラックにオーディオリージョンをポンポン置いて行きます。オーディオリージョンにはリージョンネームをつけていきます。そのネームがだいたいレコーディングする時のProToolsのセッションファイル名になります。

一通りスポッティングが終わったらテキストファイルを書き出します。このテキストデータからGoogle Sheetsにデータを移行して予算とかスタジオのレコーディング時間と照らし合わせます。無限に予算が使えるわけではないのでここの管理は実際かなり重要なんですよ。

まず映画の基本中の基本、よく同業者で「この前の映画は50曲書いた」という話す人がいますが、劇伴の仕事の量を曲数で表現するのは全く無意味です。映画の場合1曲の長さはそのシーン次第なので、それが30秒の場合もあれば7分超えの場合もあります。ですから曲数で会話しても大変さは全く伝わりません。

そういうわけで、木管、金管、ストリングス等の楽器ごとに時間を把握する必要がありますからね。例えばもし1本の映画でストリングスの必要な尺が40分あったとして、リハーサル→Take1→Take2→部分的パンチイン修正を全曲すると120分+αの時間、それと僕の場合は1時間につき10分休憩とるようにしてますから、それらを合計するとストリングスを3時間ブッキングすれば無理なく録音できるという事が瞬時に把握できます。

次回は書き出したテキストファイルからどういう手順でGoogle Sheetsに移行するのか説明します。

瀬川英史(瀬川商店)
劇伴の作曲家やってます。Netflix「シティーハンター」アニメ「烏は主を選ばない」等。シンセは危険物取扱者の甲種レベルの知識あり(多分)。
記事内に掲載されている価格は 2026年2月20日 時点での価格となります
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