パラダイス

瀬川商店第30回:Serum 2

2025.04.28

劇伴用のテンプレートには勿論ソフトウェアシンセも色んなメーカーのものが入ってますけど、一番使用頻度が多いのはSerumです。

先日めでたくリリースされた待望のSerum 2

最初に使い始めたのは2014年なのでもう10年ほど使ってるんですね。それ以前はNI社のMassiveをかなり使っていました。ちょっと調べたらMassiveも2006年に発売されてすぐに使い始めたので8年くらいは使っていたことになりますね。

Massiveがリリースされた直後はオシレーター波形の多さに面食らったけど、それにもすっかり慣れた頃にSerumが登場したので割とすんなり移行できたと記憶しています。LFOがとにかく使いやすかったし、僕の中ではMassiveの進化系が来たな!という感じでした。


MassiveはDubstepの流れになくてはならないシンセで、Envelopeも4つあってテンポと同期させやすいし、LFOも複雑にしやすかった(かなあ~もう忘れちゃったw)し、特にWobble Bassを作るならMassive以外の選択肢ないみたい時期があったしね。クラブ系は僕の守備範囲外なのですが、シンセ使いとしてはこのカテゴリーのシンセのプログラミングの仕方、特にどこまでがシンセでどこからが、エフェクト類を使った音作りなのか、、、その辺を探る楽しさが仕事以外でも常にあります。


それから劇伴ではとにかく「揺らす」という要素が大事なのでハードシンセだろうとソフトシンセだろうと、正直「LFOが二つしかありません」的なシンセだとプログラミングしにくい、、、というかLFOが沢山あった方がシンプルに楽です。ピッチ(特にDetuneね)、フィルターのDecay、Envelope系のAttack、Release、WAVE Tableのポジション、、、この辺は割と微妙な感じで絶えず動かしてます。


さて先日Serum2がリリースされたのを記念して(?)、劇伴作曲家の僕なりのSerum2の気に入ってるポイントをリストアップしたいと思います。大きいアップデートはYouTube等で既に皆んな知ってるだろうから、割と実践的なニッチな部分ね。

1)4つだったMacroが8つになった

勿論、外部MIDIコントローラーからコントロールできるパラメーターはMacroだけじゃないんだけど、それでもスクリーンの左側に8つあるとSerum2の構成全体を把握しながらオートメーションの動きも視認できるので、やっぱりMacroの数が増えるのは助かる。

2)Matrixのソース入力のカーブが調整しやすくなった

以前はカーブの指数は変えられたんだけど、ピークの値は固定だったので(まあAmount量で調整すれば事足りてたんだけどw)。文章で説明するのは難しいんだけど、よりこのカーブが自由に描けるのはやっぱり直感的。

3)FXに追加されたSplitterが超便利

僕もまだ色々探ってる途中ではあるのですが、Splitterの後段にインサートしたエフェクトのかかり(ここではDistortion)の調整をSplitterで高低にセパレートして帯域毎に調整することで微調整がしやすくなった。これもニッチで上手く伝わらないかな(笑)。MIX作業に入ったあとで微調整がしやすくなったイメージです。

4)Filterが二つになった

最近2つのフィルターの片方をハイパスにしたり、そのロールオフの始まる周波数にピークを作ったりできるシンセが着々と増えて来ていますが(WALDORFのBlofeldは10年以上前からそういう構造になっていて実はノブは少ないんでイニシャルからプログラミングはしにくいけど、詰めた音作りはかなりできた。(人にあげちゃったけどw)。Serum2もそれが簡単にできるようになって、さらにここから複雑なRoutingができるようになった。こういうのって「お〜」って思うけど、次の瞬間こちらの理解度とアイディアを試されてる事に気がついてちょっと考えちゃうけどね、、、昔のRolandのJunoのHPFにも実はそういうキャラがあるんだけど、Juno系を謳っているソフトシンセでそのHPFの癖を再現できてないものが実はちょいちょいあるのね。そういうシンセのHPFをいじりながら「チッ、分かってね〜な〜」と声にだして呟くのが僕なりのエンスージアズム。

5)BODE

FXの最初に来たのが(まあABC順だからね)、BODE。これFrequency Shifterなんだけど、モジュラーシンセやってるとこれ系は1個は持ってるよね、的な機能です。リングモジュレーターの基になってる考え方で、初期のMoog社のモジュールにもBuchlaのラインナップあったし、DoepferのA-162(現行はA-162-2)も同じファンクションを持っています。

■Frequency Shifter解説 (モーグ財団英文アーカイブ)

https://moogfoundation.org/wp-content/uploads/1974-Bode-Frequency-Shifter.pdf

■DOEPFER A-126-2代理店ページ

https://fukusan.com/products/doepfer/a100_modular/a126_2/

Moogも全てのモジュールをロバート・モーグ氏が開発したわけではなくてこのFrequency ShifterはHarald Bode氏がデザインしたものなんですね。それでこのプラグインもBodeという名前が付いてます。BODEもまだ掘ってる途中なのですが、前半に書いたように各パラメーターをオートメーションやLFOを使いつつ「揺らし」の効果を期待できますね。

6)来ました「MONO BASS」!

エフェクト「UTILITY」の中にMONO BASSのスイッチがあって、これをオンにするとその右のFREQで設定した帯域より下はモノラルになるという劇伴界が泣いたという機能が付きました。まあクラブ系の需要なんでしょうけど、低域の整理&管理に関しては劇伴系もクラブ系同じ。

というわけで無駄にベタ〜っと低域が広がらないようにコントロールできるのは素晴らしい!今までアンダースコア系のトラックで広がりのあるシンセパッドとSubBassの組み合わせで世界観を作ったりしてましたが、SubBassとPadが乖離してしまうこともあって、このMONO BASSはそういう時にPadの低域だけモノラルにする、といった使い方ができそうです。

他にも素晴らしいアップデートが満載のSerum2でした。

少し前のロックオンカンパニーのYouTubeだけど、前のバージョンのSerumの話をしてるので良かったらチェックしてください。


デモ曲でSerumがどのように使われているのか。Serum 2の活用にも役立つような解説が聴ける貴重な配信アーカイブ。
瀬川英史(瀬川商店)
劇伴の作曲家やってます。Netflix「シティーハンター」アニメ「烏は主を選ばない」等。シンセは危険物取扱者の甲種レベルの知識あり(多分)。
記事内に掲載されている価格は 2025年4月28日 時点での価格となります
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