パラダイス

瀬川商店 第16回:Recording用のセッションで使うクリック③

2024.12.23

さて前回の続き。何故Clickプラグインがあるのにオーディオトラックとしてクリックを用意した方がいいのか。昔Clickプラグインに「1小節目の1拍目が鳴らない」というバグがあったトラウマです。結局そのバグも再現性がなく必ず鳴らないわけでもなく、何かの条件が揃った時に発生していたようなので心配なんですよね。

それから、オーディオで用意して置くと、以下のようなテンポチェンジがあった時に5小節目からパンチインで対応するとしても初見の曲で次のBセクションのテンポを把握するのは簡単ではないんですね。そのために何度もリハーサルするのも無駄なので、次のような準備をします。

1)オーディオトラックをデュプリケート(複製)※あとオリジナルプレイリストに戻る必要があるから

2)テンポ変更後の2小節間をConsolidate Clipで統合しちゃう


3)別のオーディオトラックを用意(デュプリケートのショートカット使用)。そして、ProToolsの「SPOTモード」を使って、先ほどの統合したクリップリージョンのEndを5小節目の頭にする

4)さっき保存しておいたオリジナルのクリックプレイリストに戻り、5小節前のオリジナルクリックはミュートする

クリックがオーディオになっているとこの作業がメチャ早くできるんですよ。そしてプレイヤーにはこの5小節目以降のテンポのプリカウントを聞いてもらってパンチインするなり、別に用意したトラックに乗り換えてもらう。これが現場ではしょっちゅうあります。

さらにこれの応用みたいな事だけど、曲中極端に小さいダイナミクスで演奏するところも上記の様にデュプリケートしたクリックトラックを作ってそこだけさらにEQでハイをカットして演奏してもらう事もよくあります。そしてリズムが入ってきたりまたffでガシガシ弾き出すところからもとのクリックに戻るようにしますね。

あ〜もう一つ!

曲の最後のクリックですが、ストリングスの演奏が終わっているのにクリックが続くと当然「クリック漏れ」の原因になります。これも事前に演奏終わりでクリックが止まるように整理しておきましょう。僕のテンプレートには既に200小節程度ここまでに紹介したクリックトラックが良いしてあって、セッションを整えたら曲終わりに飛んで、

Ctrl+Shift+return(選択したリージョン以降の全てのリージョンを選択)

のショートカットで不必要なところは1発で削除しておきます。

説明長くなりましたが、これがクリックはオーディオにして置いた方が良い利点の1つですね。勿論、他にも上手いやり方はあるかも知れないし、一緒に仕事するエンジニアさんに相談するのが一番良いと思います。

瀬川英史(瀬川商店)
劇伴の作曲家やってます。Netflix「シティーハンター」アニメ「烏は主を選ばない」等。シンセは危険物取扱者の甲種レベルの知識あり(多分)。
記事内に掲載されている価格は 2024年12月23日 時点での価格となります
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