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たった数秒でスーパーアナログなサウンドに。Cradle「Super Analog Bundle」レビュー!

2025.12.17

ミックスやマスタリングにおいて解像度や音圧だけでなく、音楽としての説得力やグルーヴ感まで含めて仕上げるために、プロの現場では長年アナログ的なアプローチが重視されてきました。
そんな思想を現代的なプラグインとして落とし込んだのが、Cradle のこのバンドルに収録された 「Orion」と「The God Particle」 です。本レビューでは、収録された各プラグインが実際の制作工程でどのように機能し、どんな場面で力を発揮するのかを検証していきます!

「Super Analog Bundle」とは

「 Super Analog Bundle」は、16回のグラミー賞受賞を誇りビヨンセやBTS、ロザリア、ジェイ・Zなど、多彩なジャンルのアーティストを手掛けている業界で最も引く手あまたのミキシング・エンジニアの一人である、Jaycen Joshua 氏とCradle社との共同開発で生まれた製品です。
製品はCradleを代表する2つの人気プラグインである、
・Orion
・The God Particle
をバンドルしています。
いずれもJaycen Joshua 氏のミックス/マスタリングチェーンを参考に作られており、プラグイン起動直後のデフォルト設定は、Jaycen Joshua氏が普段使用している設定となっているとの事。
細かいパラメーター調整を追い込むよりも、プロの完成形に近い音を即座に得ることにフォーカスしているようです。

早速製品を見ていきましょう!

Orion

「Orion」はドラムのバストラック専用に設計されており、
インサートするだけで、ドラムに「パワー」「パンチ感」「重量感」を追加でき、迫力のあるスーパーアナログなサウンドに変身させるプラグインです。

プラグインの操作はこの画面で完結します。
左右下部のINPUT/OUTPUTノブの上に領域の名称があります。
GUIは、


Input(インプット)
INPUTレベルのコントロールです、
上段の数値はピークレベル、下段は RMS レベルを表示。
緑色のターゲットは推奨レベルですが、あくまで参考程度で考えて良さそうです。

Drive(ドライブ)
サウンドに色付けや歪みを加えるゲインブースト系モジュール。
3 種類の Color モード(a / b / c) を切り替え可能。
またハイパスフィルタで処理後の低域をコントロールできます。

Harmonics(ハーモニクス)
低域に倍音を付与する事で強調できます。
キックなどに太さ、パンチ感を与える用途に適しています。

Compression(コンプレッション)
2 つのモード(a / b)を選択可能。
Mix コントロール により原音と圧縮後の音量バランスを調整できます。
Jaycen Joshua 氏は ≈ -1dB ~ -2dB のゲインリダクション目安を推奨との事。

Lift(リフト)
サチュレーションと倍音を全域にかけて音に纏まり感を与えます。
高域にフォーカスすることで、音の存在感やディテールを強調します。

Harmonic EQ(ハーモニック EQ)
5 バンド構成で、それぞれの周波数の倍音を微調整できます。

Parallels(パラレル処理)
信号を複数の “並列処理パス” でカラーリングします。
・Sub — サブベースを補強
・Low — 低域の存在感を増強
・Loud — 音圧感と存在感を高める
・Grit — トランジェント(アタック)の強調や粗さを加える
これにより原音の特性を残しながら、印象的なサウンドに仕上げられます。

Output(アウトプット)
最終出力の音量を制御するモジュールで、
Input と同様にピークと RMS の数値をリアルタイムで表示。


上記が概要になります。
早速適用してみたところ、ドラムの存在感がグッと増してメリハリのあるサウンドになりました。

前述の通りプラグイン起動直後のデフォルト設定は、Jaycen Joshua氏が普段使用している設定となっており、
プリセット名『start me up』から少し微調整を行うだけで、かなり良い感じの音になりますね。
プリセットは少なすぎるという事も無く、AB比較が出来る設計なので一旦現在の設定をAに残しておいて、Bでプリセットを聴き比べて、といった作業が出来る所も嬉しい設計です!

倍音をコントロールする”Harmonic EQ”と”Parallels”が強力で、
かなり低域を盛る事もできます。
この辺りは曲調によりけりですが、HIPHOPやR&Bなどドラムの低域が重要になるジャンルにおいては非常に有用な機能になるでしょう。

そしてちょっとした発見なのですが、
低域に倍音を付与する”Harmonics”を0にして”Parallels”の方で低域の調整をすると、また違った効果が得られます!
“Harmonics”で調整するよりも細かく触れますし、並列処理な為か自然な仕上がりになる気がします。
(ちなみに”Harmonic EQ”は、”Harmonics”を0にしても問題なく適用されます。)

The God Particle

マスタートラックに複数のプラグインをインサートすることなく、楽曲を芯のある艶やかな音質に仕上げることができる、マスタリング用プラグインです。
ドラムバスなどのバスにインサートしても効果的との事ですが、今回はマスタートラックにインサートして使用します。

GUIの概要は以下の通りです。


Input(インプット)
Inputレベルを調整します。
ピーク値(上段)と RMS 値(下段)がリアルタイムで表示され、適切なゲイン設定を視覚的に確認できます。表示される緑色のスイートスポットは、Jaycen Joshua 氏が想定する理想的な入力レベルの目安となっており、各数値はクリックすることでリセット可能です。

EQ(High / Mid / Low)
ミックス全体のバランスを整えるための 3 バンド EQ です。
High では高域の空気感、Mid では楽曲の中心となる存在感、Low では低域の厚みや安定感を調整できます。大きく音作りを変えるための EQ ではなく、全体の方向性を微調整する目的で設計されています。

Amount(アマウント)
プラグイン全体の処理量をコントロールする、最も重要なパラメーターです。
0〜200%の範囲で設定可能で、100%が Jaycen Joshua 氏の推奨値とされています。このノブを操作することで、内部のダイナミクス処理やキャラクター付けの強さが一括で変化します。

Gain Reduction(ゲインリダクション)
内蔵されているマルチバンド・ダイナミクス処理の動作を視覚的に確認できるメーターです。
周波数帯域ごとの圧縮量が表示され、Amount の設定に応じてどの程度ダイナミクスがコントロールされているかを把握できます。必要に応じてバイパスすることも可能です。

Sidechain(サイドチェイン)
ダイナミクス処理のトリガーとなる信号を指定するセクションです。
内部信号を使用する Internal モードに加え、外部トラックを指定できる External モードにも対応しています。これにより、キックなどを基準にしたダイナミクスコントロールも行えます。

Limiter(リミッター)
プラグイン最終段に配置されたリミッター機能です。
音圧感を高めながらも、出力が 0 dB を超えないよう制御します。リミッターによるゲインリダクション量は、メーターおよび数値で確認できます。

Output(アウトプット)
処理後の最終出力レベルを調整するセクションです。
Input と同様にピーク値と RMS 値が表示されるため、クリッピングを防ぎながら適切な出力レベルに調整することが可能です。


こちらのプラグインもよく出来ています!
適度な纏まり感や明瞭感がプラスされて、インサートするだけでここまで良く纏まるのかと驚きました。この手軽さはこれまでに無い位かもしれないです・・
元々「Orion」よりも操作する部分が少ない事もあり、もうほぼインサートしたら終わりです(笑)後は上記の細かいポイントを微調整、と言った感じになります。
プリセットはユーザープリセットを保存する事ができますが、
ファクトリープリセットは無しです!メーカーの強いメッセージを感じます・・

「Orion」との組み合わせで相互効果を発揮、との事でしたが、使ってみると確かに納得です。
当然ですが2つのプラグインの目指す方向性が同じなので、ドラムトラックで方向性が固まってから、マスタリングのフローが非常にスムーズになりますね。
個別のプラグインとしては、 「Orion」よりもやや得意ジャンルは選ばない印象です。

まとめ

Cradle製品、非常に面白かったです!
「Orion」に関しては、ドラムバス用のプラグインって色々あるんですが、浅い言葉になってしまいますが非常に「今っぽい」サウンドが瞬時に作れる点も魅力です。昨今の楽曲ではドラムはボーカルと同じくらい存在感がある曲が多いので、こういったプラグインは実際の制作に大きく役立つと思います。
個人的には、コントロール出来る部分も多過ぎず少な過ぎず、好印象でした。
「The God Particle」は非常に特徴的なプラグインで、こういったマスタリング系のオールインワンプラグインは各社出しているのですが、操作時間がダントツで短かったです。
インサートするだけでここまでの完成度まで持っていける事が衝撃的でした。
2製品のシナジーは非常に強力。このサウンドがマッチさえしてしまえば単なる時短ツールの枠を超えた強力なプラグインとして使用していけると思います!
マッチするジャンルとしては打ち込みやビートの強めな音楽全般、オススメです。

Rock oN ソフトウェア研
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記事内に掲載されている価格は 2025年12月17日 時点での価格となります
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