Focusriteから、新たなフラッグシップ・オーディオ・インターフェースとして話題の「ISA C8X」。
Focusriteのオーディオインターフェースシリーズの最上位モデル、RedNetシリーズと同等の24ビット/192 kHz AD/DAコンバーターを搭載し、ダイナミックレンジ125dB、THD 0.00022%を実現しています。
さらには26In/28OutのUSB-Cオーディオ・インターフェースとして、8基のマイクプリアンプ、ADAT、S/PDIF、MIDI、Word Clock、12系統のアナログ・アウトなど、現代のスタジオに求められる多彩な入出力を一台に集約しています。
単なる「多機能なハイエンド・インターフェース」以上の魅力がISA C8Xにはあります。最大のポイントは、その名前が示す通り、Focusriteの歴史そのものともいえる「ISAプリアンプをインターフェースの中核に据えていること」です。
FocusriteのISAの歴史は、1985年にGeorge Martinから依頼を受けたことに始まります。そのとき開発されたのが、後のISAシリーズの原点となるマイクプリアンプ「ISA 110」。以来40年にわたり、ISAはFocusriteを代表するアナログ回路として発展してきました。

ISAの特徴としてまず挙げられるのが、Focusriteのレガシーを共に歩んだLundahl社のLL1538トランスを採用している点です。2基のISAプリアンプにはこれによって入力信号にナチュラルな温かさと厚みを付加し、最大79dBのゲインを備え、低い感度のマイクにも対応。Focusriteコンソールのサウンドを再現し、インピーダンス切り替え機能を備え、ギター、ベース、シンセサイザーなど楽器本来のサウンドを極限まで引き出します。
ISAと聞くと、トランスによる独特の質感や、クリーンでありながら存在感のあるサウンドを思い浮かべる人も多いでしょう。ISA C8Xでは、そこにさらに一歩踏み込んだ機能が加えられていて、それが1ch / 2chにリレースイッチで切り替え可能な2つのアナログ回路として搭載されている「Consoleモード」「430 Airモード」で、ここが従来のISAプリアンプとISA C8Xを考える上で特徴的な面白いポイントです。

・Consoleモード―入力段で押し出しを作る
Consoleモードは、単純なEQプリセットのようなものではありません。アナログ回路によるソフトクリップを利用して、暖かみのあるサチュレーションとローエンドのパンチを加える機能です。Focusriteによれば、可変式のソフトクリップ回路によって、信号にアナログ的な質感を加えます。
例えばボーカルやベース、キックなど、もう少し前に出てほしい音。あるいは、DIで録ったギターやベースに、わずかにアナログ機器を通したような厚みを加えたい場合。こうした用途では、DAWに録音した後でプラグインを使うという方法もあります。
しかしConsoleモードの面白さは、録音する段階で音そのものに変化を与えられることです。「後で加工する」のではなく、「この音で録る」という判断を、マイクプリアンプの段階で行えるわけです。
・430 Airモード――ISA 430 MkIIから受け継いだもう一つの個性
もう一つの特徴が430 Airモードで、名前からもわかる通りこの回路は、Focusriteのチャンネルストリップ「ISA 430 MkII」から受け継がれたものです。この『430 Airモード』では、インダクター方式のハイシェルビング・フィルターが作り出す透明感と立体感あふれるサウンドが特徴です。
Consoleモードがサチュレーションやローエンドのパンチを担当するのに対して、430 Airモードではハイエンドに輝きや抜けを加える方向へ音を変化させますので、つまり1ch / 2chでは、ISAならではのトランス・プリアンプを基本にしながら、さらに「厚みを加える」のか、「高域の抜けを加える」のかを選択できるわけです。

ISA C8Xには、ISAプリアンプ以外にも6基のマイクプリアンプが搭載されています。こちらは最大69dBのゲインを持ち、Airモードや可変Driveなど、ISAとは異なる方向からサウンドを作ることができます。
つまり、ISA C8Xの8ch入力は「8チャンネル全部が同じ」というより、異なるキャラクターを持った入力を一つのインターフェースの中に共存させることに意味があります。これによって「ボーカルなど、音のキャラクターを積極的に作りたいチャンネルにはISA」「その他のマイクには6基の通常プリアンプ」という使い分けも可能になります。
プリアンプの各機能はリモートコントロールにも対応しており、幅広い音源を確実にキャプチャー可能。さらに各チャンネルには、クリアな高域をもたらすAirモードと、質感を段階的に調整できるDrive機能を備え、楽器それぞれの特性に合わせたあらゆるニュアンスを忠実に捉えます。
他にも便利な機能が「オートゲイン機能」です。
これは8つのプリアンプの入力ゲインをC8Xが瞬時に自動調整できる機能です。面倒な設定は不要で、フロントパネルからボタン1つで実行できるほか、デスクトップ版またはモバイル版「Focusrite Control 2」からも操作可能です。

ISA C8Xはモノラル、ステレオからイマーシブ・フォーマット(最大7.1.4チャンネル)までのチャンネル・フォーマットに対応しているのも大きな特徴です。さらには3つのモニターグループをフロントパネルまたはソフトウェアスイッチで切り替えが可能。
プロ仕様の最大出力レベル+24dBuに対応し、125dBのダイナミックレンジ(A特性)で入力信号に合わせて適切なレベル設定が可能。出力1/2はXLRおよびTRSのいずれのプラグにも対応します。

さらに公式ソフトウェア「Focusrite Control 2」を使うことで、フロントパネルを操作することなく、ミックスやルーティングを簡単に管理・保存・呼び出しすることができます。複数台のインターフェースの一元管理および入力信号の低遅延モニタリングの設定も可能です。
ISA C8Xを見ていて興味深いのは、Focusriteが40年近く守ってきたISAの設計思想を、そのまま過去の遺産として扱っていないことです。
Lundahl LL1538トランスを使ったISAプリアンプという核は残しながら、Consoleモードや430 Airモードによって音作りの幅を広げ、さらに26 In / 28 Out、ADAT、Word Clock、リモートコントロール、イマーシブ・オーディオまでを一つのシステムにまとめています。
ISA C8Xは、昔ながらのアナログ・プリアンプを現代のインターフェースに載せただけの製品ではありません。「良い音で録るためのプリアンプ」と「現代のスタジオを動かすためのインターフェース」を、どこまで一体化できるか。
その答えとして登場したのがISA C8Xなのではないでしょうか。Consoleモードや430 Airモードの存在は、ISAが今もなお「ただ正確に信号を増幅するための回路」ではなく、録音する人が音を選び、音を作るための道具であることを改めて感じさせてくれます。