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瀬川商店 第13回:ProToolsの”所謂”Super Sessionとは

2024.12.11

最近、アニメの制作本数がものすごく増えているんですね。少し前までは、ワンクール(1月〜3月のような3ヶ月間を指す、日本独特の言い回しで、「ワン」は英語、「クール」はおそらくフランス語から来ていると思います)でアニメが50本ほど制作されていましたが、最近では70本にまで増えているそうです。

15年くらい前、ロックオンカンパニーで劇伴関係のセミナーをやった頃は、実写ドラマとアニメを合わせてワンクールで50タイトルくらい制作されていたと思いますが、今ではそれを遥かに超える数のタイトルが制作されています。

当然、劇伴の制作も増えていて、最近ではスタジオの予約が取りにくくなったり、ミュージシャンのスケジュール調整が大変だと感じます。それに伴い、劇伴に携わる作曲家も増えていて、ProToolsセッションの作り方に関するトラブル(?)もよく耳にします。ポップス系のProToolsセッションとは大きく変わらないものの、劇伴には特有の要素があるので、今後数回に分けて劇伴のProToolsセッションを準備する際の注意点を解説していきます。

劇伴では映像を扱うことが多くなります。映画はもちろん、実写ドラマやアニメでも事前にストックされた曲を映像に合わせて使う場合もあれば、最近では映像と音楽のシンクロにこだわる監督が増えていて、ストック曲とは別に、部分的に映像に合わせて書き下ろすことも増えています。ちなみに、僕が担当した「烏は主を選ばない」というアニメでは、全20話すべてに於いて映像に合わせてトラックを書き下ろしました。

ProTools以外のDAWでも同じですが、ムービーをインポートすると「プロキシ」というデータ量の少ない作業用ファイルが自動的に作成されます。DAWによってキャッシュの保存方法は異なりますが、Nuendoのようにムービーファイルと同じフォルダにキャッシュが生成される場合もあります。

例えば、1つの映画で70曲分のセッションを用意する際、毎セッション、ムービーファイルをインポートするとキャッシュが増え、最近のスタンダードである4K映像が曲数分だけ複製され、プロジェクト全体の容量が膨大になります。その結果、バックアップにも時間がかかるようになります。

この問題を防ぐために、プロジェクトフォルダ内にムービー用のセッションを1つ作成します。僕は「Super Session」と名付けていますが、LAではそう呼んでいたものの、チームによって呼び方は違うかもしれませんので、好きな名前を付けてください。Super Sessionのセッションのスタートタイムは、通常この手のムービーではタイムコードが00時間59分55秒00フレームに設定されているので、それに合わせます。

次にムービーをインポートし、ダイアログ用のトラックも生成されます。仮編直後のバージョンだと、ダイアログはまだ整音されていない場合もあります。僕は、そのようなオーディオトラックには「OCD」(On Camera Dialogue)という名前を付け、後で整音されたトラックと明確に分けて管理します。ピクチャーロック(編集が終了したバージョン)後でも微調整が入ることがありますが、OCDをセッションに残しておくと、編集ポイントの確認が容易になります(波形のズレがヒントになるので)。そのため、トラック名は分かりやすくしておいた方が良いでしょう。そしてそのSuper Sessionは一旦閉じます。そしてレコーディング用のProToolsセッションを作成したら「Import/Session」から先ほど作成しておいたSuper Sessionからムービーとダイアログのオーディオトラックをインポートします。このやり方だとレアなムービーファイルをインポートするのではなく、既にキャッシュを作成済みのProToolsのトラックをインポートする事になるので無駄にムービーファイルを複製しなくて済むんです。プロジェクトが進んで映像が更新された場合ももう一度別のSuper Sessionを作成して、そのセッションからインポートするようにします。そして気を付けなければいけないポイントは、Super Sessionは必ず同じプロジェクトのフォルダ内の階層に保存して、別のドライブのストレージや、別のフォルダに保存しないようにしてください。ProToolsのセッションがオリジナルのムービーのアドレスを見失う原因になりますので。

瀬川英史(瀬川商店)
劇伴の作曲家やってます。Netflix「シティーハンター」アニメ「烏は主を選ばない」等。シンセは危険物取扱者の甲種レベルの知識あり(多分)。
記事内に掲載されている価格は 2024年12月11日 時点での価格となります
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