今回も劇伴寄りの話にはなるけど、基本ポップスのレコーディングでも同じなはず。これ以上のセッティングは担当するレコーディング・エンジニアさんと相談して詰めてください。今回の話はスタジオに於けるレコーディングの話です。ライブのステージ収録はまた別ですからね。
まずはスタジオで通称「ドンカマ」と呼ばれるクリックの準備が必要です。クリックの音色に関しては日本と海外でもかなり文化の違いがあります。理由はわかりませんがかなり長い間日本はガラパゴス状態でした。僕が海外レコーディングに行き始めたのは90年代ですが、海外のスタジオでクリックとしてリムショットやカウベルの音色を使っているセッションは見たことがありません。多くは英語でUREI Clickと呼ばれているクリック音、または昔AkaiのMPCからサンプリングした波形を使っていたのでMPC Clickと呼ばれるクリック音のどちらかでしたね。
NYでもLAでもパリでもインドのムンバイに行ってもクリックはこのどちらかの音色でした。一方90年代の日本はカウベルまたはリムショットを使う場合がほとんどでした。国が違えば文化が違うのは当たり前。どちらが良いとか悪いの問題ではないんだと思います。なのでここでは海外で何故UREI Clickを使うのかと理由を書くことにします。理由は二つ。
1)UREI Clickを使ってもストリングスの編成が12人以上になると、ヘッドホン(日本のストリングスのミュージシャンの多くはイヤホンで、海外だと片耳ヘッドフォンですね)から漏れがちになります。
ストリングスのレコーディングの際はかなりの数のマイクをスタジオ内に立てる事になるので、漏れが微小でもそのマイクの数によって塵積もになってプレイバックした際にクリック音が僅かに聞こえたりする結果になるわけです。カウベル、リムショットをドンカマに使うとヘッドホンから即漏れます。ドラムスのようにそもそも楽器自体の音が大きい場合はそれでも良いかも知れませんが、ストリングスや木管のように決して爆音で鳴ることがない楽器の場合はカウベル、リムショット系はかなり漏れやすくなります。そして劇伴だとpp〜mpで演奏してもらう場面も頻繁にあるし、バイオリンのハーモニクスやflautandoといった奏法になるとマジで音量がかなり小さいので、そう言う時にカウベル、リムショット系のドンカマを使うのは100%無理です。
ミュージシャンの中には30代の比較的若い世代でもUREI Clickを嫌がる方々もいらっしゃるようですが、イヤホン、ヘッドホンから音漏れするのを好む作曲家に出会ったことは過去にないので営業的なアドバイスをさせて頂くならばUEI Clickで演奏できるようにした方が良いかなと思います。
2)カウベル、リムショットを爆音で聴くミュージシャンが少なくないのは知っています。ただ難聴になる危険性が高くなるのも確かだと思います。これに関しては確かなエビデンスを持っているわけではないのですが、海外のドラマーのヘッドホンボリュームって意外と小さいんですよ。(何にでも例外はあるし、僕が言ってるのはバンド系のミュージシャンではなく日々レコーディングセッションで生計を立てている人達の話です)UREI Clickはカウベルのクリックのように「聴く」というよりはパルスの音圧を感じるようにモニターするんです。ですから慣れてくるとカウベル等よりも格段に小さい音量でクリック音を確認できるんです。一旦難聴になったら現代の医学ではもう元に戻ることはないので、イヤホンを使って爆音で音楽を聴く気持ちよさは僕も重々承知していますが、長いミュージックライフの事を考えてやはり自重しましょう(笑)
海外のミュージシャンがUREI Clickでタイトな演奏ができるのに、日本のミュージシャンだけがカウベル使わないとそれができない理由があるとすればなんでしょうね。逆に教えて欲しいです。リズムの取り方、感じ方の違いなんでしょうかね。